第29回 「政権交代選挙」を巡って

民主党が第一党の位置を占めて政権交代を実現、自民党が結党以来の大敗を喫する”歴史的な”選挙となった、第45回衆議院議員選挙。今回の選挙を、「生命倫理」を巡る行政の在り方と、投票行動を巡る意識の在り方など「JCcast的観点」から考える。
JCcast 第29回、収録はルノアール大久保店、1号会議室にて。
(09年9月2日収録)

参加メンバー
・粥川準二
・山下祐司
・武田徹

 

◆第29回を視聴

◇第29回 chapter 1 [TIME 0:00?0:30]
「生命倫理」が争点になる国、ならない国?? 粥川は先のアメリカ大統領選挙と比較しながら、生命倫理行政の在り方を基点に今回の選挙を振り返る。”生命への介入”に関する多くの「ルール」が策定されていながらも「法律」として成立していない国内の現状を指摘し、「脱官僚」を掲げた民主党による今後の取り組みや、生命を巡る「法の在り方」について考える。

>
REMOVING BARRIERS TO RESPONSIBLE SCIENTIFIC RESEARCH INVOLVING HUMAN STEM CELLS(オバマ大統領による幹細胞研究への規制緩和命令)

  >> その翻訳(粥川)
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Signing of Stem Cell Executive Order and Scientific Integrity Presidential Memorandum(規制緩和命令に署名したオバマ大統領のスピーチ)

> ぬで島次郎「生命倫理は国政選挙の争点にならないか」
> ぬで島次郎・小門穂「生命倫理を社会全体の議論にするために―フランス「全国民会議」調査から考える―」
> ぬで島次郎『先端医療のルール』(講談社現代新書)

◇第29回 chapter 2 [TIME 0:30?0:55]
「今回の選挙、皆さんはどんな基準で投票されました?」。山下は、2005年にアメリカで発表された論文(*)を引き、候補者の外見から受ける印象が、投票行動に作用している可能性を指摘。自らも「本当に、合理的な判断から投票していたのか」という疑問を提示し、論文を基点にトークを展開する。終盤には「どうなっちゃうんですかね、これからの日本は?」など。
<注:非常にわかりにくい紹介で、かつ訂正・補足の必要もありましたので、リンク集の下で再度説明しています。よろしくお願い致します。山下>

(*)Inferences of Competence from Faces Predict Election Outcomes(2005).Todorov et al Science 308:1623-1626.

> 中日新聞:<本紙出口調査分析> 「生活密着」に期待感:09総選挙(CHUNICHI Web)
> 選挙でも第一印象が重要 米プリンストン大の研究 AFP
  >> Ballew&Todorov(2007) PNAS 104:17948-17953.
> What’s in That Face? A Candidate’s Future (NYtimes)
> 『現代政治学叢書5 投票行動』(三宅一郎,東京大学出版会)
> 『人は見た目が9割』(竹内一郎,新潮社)

紹介したのは2005年に発表されたもので、選挙のときに僕たちは、無意識的に候補者の「有能さ(competence)」を比較して投票している可能性があることを示した論文。
・実験?
 00,02,04年の米国上院と02,04年の下院議員選挙の選挙区ごとに対立する候補者二人の白黒顔写真を、彼らをまったく知らない被験者にみせ、どちらが「有能そうか」と質問し選ばせました。04年の上院選挙のみ投票日の2週間前に実験を行っています。
→ 実際の当選者と次点候補者の写真が使われています。他の立候補者は除外されています。先入観やに何かしらの情報を持っていると、この実験は無に帰されるので、知らない候補者を見て選んでもらう必要があります。そのためにプリンストン大学のあるニュージャージー州の選挙やマケイン、ケリー、ヒラリーなど正副大統領候補、有名な候補者がいる選挙は除かれています。米国は日本より広いので、他の選挙区の候補者は知らないと想像するのは難しくないでしょう。特に下院選挙は二年ごとに435もの議席が争われています。上院は同じく二年ごとに33-4議席が改選されています。とはいえ、選挙後に日本のように良くも悪くも様々な点で注目されることもあるので(!?)、既に知っている候補者に出くわしたときのデータは除かれています(これなら日本でもなんとか設計できそうな気がします)。また、写真はカラーや背景を処理され、民主党と共和党、当選者と落選者とが偏らないようにバランスをとって左右に配置されています。
結果?-1
 すると、より多くの人に「有能そう」だと思われた候補者が実際の選挙で当選していました。上院選挙では71.6%、下院選挙では66.8%が一致していました。共にp<0.001なのでこれが偶然起こりうる確率は0.1%以下です(統計的に有意に差があるとされるのは、pが0.05より小さい場合です)。
結果?-2 (Fig.1B)
 さらに、各選挙で比べてみると「competence」と実際に行われた投票とに相関関係が見られました。対立候補者より「competence」で大きく上回る候補者ほど実際の投票では差をつけて当選し、「competence」の差が縮まるほど選挙で拮抗し、「competence」で負けると実際の選挙でも落選するというリニアな相関関係がみられました。
→ 結果?より「competence」と思われた人が当選し、結果?より候補者たちの「competence」の差と得票率が相関することが示されました。とはいえ、相関係数は最も高いもので上院選挙の0.44、もっとも低いもので2002年の下院選挙で0.37。ですから、強い相関関係が見られるわけではありません(この点はラジオでは強い相関があると話しています。訂正してお詫び申し上げます)。この相関関係から逸脱している7つの選挙をみると、非常に興味深い現象がみられます。そのうち6つは「competence」が低くとも当選した原因として、現職だったために有利だったと考察されています。しかし、一つは現職の候補者が出馬しない選挙でした。それは、2004年に行われたイリノイ州の上院選挙で、なんと当選したのは、オバマ大統領でした。一説には対立候補者に問題があったようですが、こんなところからオバマの「実力」がみえるのかもしれません。
・実験?
 被験者に写真を見せる時間と判断を下すまでの時間を約1秒にして、同様の実験を行いました。
→ これは考える時間を与えないように、意識的に選択できないようにするために行っています。それまでは、質問票をつかったりして、特に制限時間を設けていませんでした。
結果?
 時間を短縮したことによる影響はほとんどなく、実験?とほぼ同じようにより多くの人に「competence」だと思われた候補者が実際の選挙で当選し、相関関係も生じていました。
・実験?
 被験者に「competence」ではなく、特に情報を与えられるわけではないが実際の投票を想定して候補者を選んでもらいました。
結果?
 「competence」と想定投票の間により強い相関関係がみられた。
→「competence」に対する相関性を比べると、実験?より実験?の相関性が弱い。それは本当の選挙では「competence」を感じたあとに、様々な候補者の情報を得ることになり、その影響が弱くなったのだと著者たちは書いています。このあたりはラジオで説明が抜けています。お詫びいたします。
その他
 「competence」以外の要因を調べるため、被験者に有能さ(competence)、知性(intelligence)、指導力(leadership)、誠実性(honesty)、信頼性(trustworthiness)、カリスマ性(charisma)と好感度(likability)や、「年齢」、「魅力」、「親近感」なども調べましたが、関連は示されませんでした。なお、論文では説明した順序で実験が行われているわけではありません。