月刊文藝春秋2018年10月号掲載「新書時評」生原稿。 ****** AVと聞いてアダルトビデオしか連想できないようではアウトである。今やAVといえば自動運転車(Autonomous Vehicle)だ。 冷泉彰彦『自動運転「戦場」ルポ』朝日新書はIT企業やベンチャーも加わって展開されている熾烈なAV開発競争の最新報告。事故を起こすと人命に関わる自動車を自動運転する難しさを丁寧な取材で浮き彫り…
作者別: 武田 徹
武田徹(たけだとおる) 東京都出身。国際基督教大学教養学部人文科学科、同大学大学院比較文化研究科修了。ジャーナリスト・評論家・専修大学文学部教授など。 著書に『流行人類学クロニクル』(日経BP社。サントリー学芸賞受賞)、『産業の礎―ルポ日本の素材産業』(新宿書房)、『偽満州国論』(河出書房新社→中公文庫)、『隔離という病』(講談社メチエ→中公文庫)、『核論』(勁草書房→中公文庫→『私たちはこうして原発大国を選んだ』と改題して中公新書ラクレ)、『戦争報道』(ちくま新書)、『NHK問題』(ちくま新書→amazonKndleでセルフパブリッシング)、『殺して忘れる社会』(河出書房新社)、『暴力的風景論』(新潮社)、『日本語とジャーナリズム』(晶文社)、『日本のノンフィクション史』(中公新書)などがある。 法政大学社会学部、東京都立大学法学部、国際基督教大学教養学部、明治大学情報コミュニケーション学部、専修大学文学部などで非常勤・兼任講師を務める。東京大学先端科学技術研究センター特任教授、恵泉女学園大学人文学部、人間社会学部教授を経て2017年4月より専修大学文学部人文ジャーナリズム学科教授。グッドデザイン賞審査委員、BPO放送と人権委員会委員なども歴任した。
総覧系新書にみる意味とイメージの伝播
月刊文藝春秋2018年12月号掲載「新書時評」生原稿。NHK出版の担当者の方からお礼とともに「まさかマンチンと並ぶとは」とのお言葉をいただきました。 ********* 松本修『全国マン・チン分布考』インターナショナル新書の冒頭で紹介されるのは、二三年前にテレビ番組『探偵ナイトスクープ』宛に寄せられたハガキのエピソードだ。 当書主は当時二四歳。東京在住の彼女が京都の実家から送ってもらった饅頭を…
平成の三冊
月刊文藝春秋2019年1月号掲載「平成の三冊」生原稿です。他のメディアでも書いていますがそれぞれ違うのを選んでいるので、本当に本当の三冊を選ぶとしたらと聞かれそうですが、これは割と本音に近いセレクション。 ****** 人文、社会科学、文学の領域でそれぞれ個人的に印象に残っている三冊を選んでみた。 まず人文書では東浩紀『存在論的、郵便的』新潮社を挙げたい。著者は昭和末のニューアカブーム以来、沈…
給食時間が怖かったことから始まる「食」論
月刊文藝春秋2019年1月号掲載「新書時評」 ********** 食べることを楽しめない。それはきっと小学校時代の給食のせいだ。好き嫌いは特になかったが、自分には量が多すぎた。担任教師は完食するまで席を立たせなかったので、どうすれば食パン4枚を時間内に食べ切るか、事前に配られる献立表を見ながら作戦を練りに練った。そんな記憶が半世紀経ってなお生々しいのは、それだけ辛かったのだろう。 しかし今回…
「一生困ったことがない人なんていないし、一生困っている人を助けるだけの人だっていない。それが〈平等〉ということ」
月刊文藝春秋2019年3月号掲載「新書時評」生原稿です。認知症フォビアから始まって社会の”最大公約数”としての障害いついて。 ******** 何か失敗すると「自分もついに認知症かも」と口走る中高年が多い。それは認知症への不安の裏返しだ。その不安は、ガンや成人病に対するものとは違って、症状だけに留まらず社会的存在としての自分が失われ、意図せずに長く辛い介護を周囲に求めてしまうことへの恐怖に由来す…
平成の終わりに新書を三冊を選べば
月刊文藝春秋2019年4月号掲載「新種時評」生原稿です。 *********** いよいよ幕引きが近づき、平成を回顧する記事や番組が増えている。ここでは新書らしい視野の広がりで平成という時代を省みる機会を与えてくれそうな三冊を選んでみた。 小川原正道『小泉信三』中公新書は皇太子時代の今上天皇の教育常時参与を務めた経済学者の評伝だ。小泉は慶応義塾の塾頭として最愛の息子を含む多くの学生を戦地に送っ…
ガンダムって団塊文学だったって知ってた?
月刊文藝春秋2019年5月号掲載「新書時評」生原稿です。ネット化されていないようなので校正前のものを上げておきます。 ****** 4月といえば入学式。中でも”最高峰”東京大学に集った新入生は晴れやかな思いでいよう。だが、50年前のキャンパス風景は全く違っていたはずだ。学生運動の影響で東大入試の中止が決まり、新入生がいなかったからだ。 東大闘争とは何だったのか。学生として渦中で経験した富田武は『…
改元と日本辺境論
月刊文藝春秋2019年6月号掲載「新書時評」の生原稿です。前任校でお世話になった澤井啓一先生の訓読論に影響を受けて書いています。論文の抜き刷りを頂いたのが懐かしい。 ********** 日本オリジナルか、中国の古典がルーツなのかーー。新元号発表後に起こった論争は日本が中国文化の影響圏内にあった歴史を改めて思い起こさせた。 漢文明の周辺に位置していた経緯は朝鮮半島の国々も同じ。であれば仲睦まじく…
平成の終わりと令和の始まりの日本社会論
月刊文芸春秋連載「新書時評」2019年7月号掲載分の生原稿です。文春オンラインがスタートした直後はコンテンツ不足だったのかネット版になっていたけれど最近は電子化されていないようなのでこちらで生原稿を挙げておきます。古市『平成くん、さようなら』は大塚の紹介で知って読んだけれど面白かった。 ******** 改元フィーバーから少し時が経って冷静に振り返る余裕も出てきた頃か。そのタイミングでお勧めした…
ネット記事の図書館保存はできないか
調べ物をしていて過去の月刊『現代』の記事を読みたくなった。『現代』なら合本化されて大学図書館の書庫にあるので時間効率的にとても助かる。 同じことがネット記事ではできない。過去記事のアーカイブが案外とあっさり消えてしまうし、そうなるともう探しようもない。 図書館が雑誌を収蔵していた延長上にネット記事のアーカイブを保存する方法が確立され、印刷メディアの収集保存とシームレスに接続されないものか。Cini…