週刊読書人2013年5月24日号に掲載された根津朝彦さんの『戦後『中央公論』と「風流夢譚」事件―「論壇」・編集者の思想史』の書評の元原稿です。 ******* 本書は戦後から1972年までの論壇史を、特に60年安保後の『中央公論』(以後、『中公』)の変容に焦点を当てて論じる。 第二次大戦期の休刊を挟み、戦後46年に復刊された『中公』のライバルは『文藝春秋』『世界』だった。しかし『文藝春秋』は「…
投稿者: 武田 徹
武田徹(たけだとおる) 東京都出身。国際基督教大学教養学部人文科学科、同大学大学院比較文化研究科修了。ジャーナリスト・評論家・専修大学文学部教授など。 著書に『流行人類学クロニクル』(日経BP社。サントリー学芸賞受賞)、『産業の礎―ルポ日本の素材産業』(新宿書房)、『偽満州国論』(河出書房新社→中公文庫)、『隔離という病』(講談社メチエ→中公文庫)、『核論』(勁草書房→中公文庫→『私たちはこうして原発大国を選んだ』と改題して中公新書ラクレ)、『戦争報道』(ちくま新書)、『NHK問題』(ちくま新書→amazonKndleでセルフパブリッシング)、『殺して忘れる社会』(河出書房新社)、『暴力的風景論』(新潮社)、『日本語とジャーナリズム』(晶文社)、『日本のノンフィクション史』(中公新書)などがある。 法政大学社会学部、東京都立大学法学部、国際基督教大学教養学部、明治大学情報コミュニケーション学部、専修大学文学部などで非常勤・兼任講師を務める。東京大学先端科学技術研究センター特任教授、恵泉女学園大学人文学部、人間社会学部教授を経て2017年4月より専修大学文学部人文ジャーナリズム学科教授。グッドデザイン賞審査委員、BPO放送と人権委員会委員なども歴任した。
脱原発をかりそめに終わらせないために
図書新聞2013年5月18日号に掲載された東京新聞こちら特報部編『非原発--福島からゼロへ』書評の元原稿です。 ******* 本書は東京新聞の人気連載「こちら特報部」が展開した脱原発キャンペーン記事を一冊にまとめたものだ。「こちら特報部」は1968年に始まった同紙の人気コーナーで、見開き構成でひとつのテーマを扱い、週刊誌よりも早く、深い記事を目指して来た。311以後、その連載の殆どが原発関連記…
自前の科学を取り戻せるか
毎日新聞「パラダイムシフト 核なき社会へ」連載として2013年5月13日夕刊に掲載された記事の元原稿です。掲載版とは用語など若干違っています。 ***** 戦争写真家ロバート・キャパが1954年4月に焼津で撮った作品を観たことがある。初老の男性が孫のような年齢の赤子をおぶった、ほのぼのとした写真なのだが、その変哲のなさが逆に強い印象を残した。 その時、キャパは水爆実験で被曝し、ひと月前に帰港…
ネット選挙解禁と「選挙の公共性」
インターネットを使った選挙運動を解禁する改正公職選挙法が可決・成立した。夏の参院選以降、地方選挙も含めて適用される。 選挙関係の情報提供で絶対に守られるべき原則は、今も昔も変わらない。「機会の平等」だ。限られた出自の人しか立候補できない、当選できないとなれば民主主義は選民主義に変わってしまう。 たとえば公職選挙法の政見・経歴放送は、候補者と届出政党が政見を無料で録音、録画できるとし、資力の多…
感染症教育の使命を放棄するな
既報道のように関東・東北地方の十~二十代にはしか(=麻疹)が流行中だ。平成十三年にも「十五歳以上」の、いわゆる成人麻疹の流行が見られたが、定点観察をしている基幹医療機関での患者発生報告数では連休明けの時点で既に六年前の流行を凌いだという。 しかし、今回の流行には、どこか人災的な印象がつきまとう。日本では昭和五十三年に麻疹ワクチンの予防接種が制度化された。この予防接種の第一世代となる現在の三十代は大…
情報化の中のジャーナリズム
論壇誌を古くから通読したり、TVの時評番組を多めに時間を遡って通覧してみれば呆れるほど明らかに理解できるが、そこで「現在」は常に大いなる変革期として位置づけられている。それは、たまに、ではない。常に、だ。 確かに進行中の変化をいち早く見出して指摘し、注目を喚起したり、警鐘を鳴らすのでなければ、敢えて「現在」について何かをマスメディア上で語る価値はない。 しかし、現実には大きな変化が認められて…