ナノ粒子、脳細胞を損傷!?

--- 2006年10月15日

 日本でもナノテクノロジーのリスクがようやく議論されるようになったが、それでもまだまだ、日本語で読めるリスク情報は、決して多くはない。

 たとえば最近では、今年6月、日焼け止めなどに広く用いられている二酸化チタンのナノ粒子が脳に害をもたらす可能性を示唆する実験報告があった。この論文は、『サイエンス』のニュース欄でも取り上げられたので、そのウェブ版の記事「新しいナノ頭痛? New Nano-headache?」を紹介しようかと思ったのだが、すでに契約者しか読めない状態になっている(しかし、すでにいくつかのウェブサイトに転載(無断転載?)されている。興味ある人は、「New Nano-headache?」で検索してください)。
 少し調べてみたら、論文の掲載誌である『エンヴァイロメンタル・サイエンス・アンド・テクノロジー』誌のウェブサイトのニュース欄でも解説されていることがわかったので、ここに仮訳しておく。正確さには自信がないので、あくまでもご参考までに。06.10.15

技術ニュース 2006年6月7日付

二酸化チタンのナノ粒子が脳細胞への損傷の可能性に結びつく研究

予備段階の〔実験〕結果が、消費財に広く使われている二酸化チタンのナノ粒子が脳細胞を損傷しうることを示している。

『ES&T〔Environmental Science & Technology〕』誌の「リサーチASAP」ウェブサイトに投稿された新しい研究 (DOI: 10.1021/es060589n)において、研究者らは、二酸化チタン(TiO2)のナノ粒子が、マウスのミクログリアに急激で長期間続く防衛反応を引き起こしうることを報告した。ミクログリアは、有害な外部からの刺激から脳を守る、特別な細胞である。〔論文に関する〕連絡先の著者で、環境保護庁の国立衛生環境影響研究所の研究者ベリナ・ヴェロネシによれば、この研究は、ナノスケールの二酸化チタンの脳神経毒性の可能性を初めて調べたものであるという。二酸化チタンは、日焼け止めや化粧品といった消費財に広く使われている。
 著者たちは、研究間の比較促進のために、ほかの研究者たちが適用することを望んでいるナノ毒性検査プロトコルに従った。「〔あなたは〕注意深くその粒子の特性を明らかにします」とヴェロネシは説明する。「そして〔あなたは〕とても簡単な試験管〔in vitro〕モデルを開始します。次に〔あなたは〕そのはしごを登ります」。もっと複雑なシステムや生体〔in vivo〕実験へと。
 二酸化チタンのような比較的無毒な物質が、小さなサイズではずっと有害なものになるという証拠が積み重ねられている。ヒトでの現象を研究しなくてはならないものの、毒性学者たちは、ナノ材料が生物活性のある分子の生成をどのように促進するのかを探索し始めている。生物活性のある分子は活性酸素種(ROS)として知られ、酸化的ストレスを引き起こすことで細胞を損傷しうる。ある種の物理的特性および化学的特性----そのなかにはサイズや表面積、そして表面の電荷が含まれる----は、有望なナノ材料がどのようにして、生物学的システムのなかで酸化的ストレスの原因となりうるかを決定するよう相互反応する。
 しかし、そうした同じ特性が溶液中で劇的に変化しうる、と、カーネギー・メロン大学の環境工学の教授で、この論文の共著者であるグレッグ・ロウリーは説明する。たとえば、ナノ粒子は群がって、大きな凝集体をかたちづくり、その影響あるサイズや表面積を変えるかもしれない。「そうしな金属ナノ粒子を水に入れたときには、それらは[理想的には]振る舞いません」とロウリーは言う。「その反応を理解する必要があります」
 商業的に入手可能な二酸化チタン粒子----熱安定剤や触媒用途に使われているデグッサDegussa社のアエロサイドAeroxideP25----の溶液の特性を明らかにした後、ヴェロネシと彼女の同僚たちは、2.5〜120ppmまでの範囲の濃度で、その粒子を、培養されたミクログリアに曝露させた。ミクログリアは、食細胞活動〔ファゴサイトーシス〕ととして知られるプロセスのなかで、それらを取り込むことによって刺激に反応し、その原因刺激を除去するようになっている「酸化的破壊」のなかで化学物質を放出した。2時間以上かけてROS形成の化学的信号をモニターすることによって、研究者たちは、二酸化チタンのナノ粒子が、ミクログリアによる急激で長期間のROS〔活性酸素種〕放出を引き起こすことを発見した。
 ミクログリアは防衛メカニズムとしてROSを産生するのだが、長期間の放出は、実は脳に有害となりうる。「[ミクログリア]それら自体は、酸化的ストレスの危険に対してほとんど無敵なものです」とヴェロネシは説明する。「しかしながら、それらが〔脳の〕環境にROSを放出したときには、それらが周囲の細胞を損傷する可能性があります」。同様のメカニズムは、パーキンソン病やアルツハイマー病を含む、ある種の神経変性疾患における神経の損傷の原因としてかかわっている。
 著者らの次のステップは、ナノスケールの酸化チタンに引き起こされたROSによって、脳神経が傷つけられるかどうかを確かめることである。ヴェロネシによれば、ある予備研究が、二酸化チタンに曝露された脳神経のなかには、最終的には細胞死に進行しうる細胞過程を開始するものもあると示しているという。しかし、この知見はまだ予備的なものであることを彼女は強調する。「それはとてもとても長いプロセスなのです……これ〔この研究〕はただのABCです。しかし、それは確固としたデータであり、自信を持って続行されうるものです」
「彼らは今後の研究のための舞台をセットしたのだと私は思います」と、ロチェスター大学の環境医学の助教授リサ・オパナシュクは同意する。「[この研究の]最も重要な側面は、粒子の[広範囲の]特徴描写です」。オパナシュクは「ROSの分析は、細胞レベルでの反応を見るためにはよいステップです」と述べる。しかし彼女は、研究者らは、ナノ粒子が抗酸化防御システムを活性化したり、炎症を導く徴候もまた調べなければならないと付け加えた。
「これをいっしょに扱えば、それはとても素晴らしい物語となり、私たちが注意しなければならないことを強調すると思います」と、GSF吸入生物学研究所(ドイツ)のウルフガング・クリイリングは言う。体内におけるナノ粒子の転移を集中的に研究してきたクレイリングは、ある種のナノ材料は脳血関門を通り抜けて脳内に居続けることがわかっている、と述べる。
 クレイリングは、二酸化チタンのナノ粒子が脳に届くかどうかは断定していないが、彼はすでに、それらが肺からほかの臓器へと広がりうることを見いだしている。彼は、ヴェロネシの研究で用いられた濃度は実際の曝露よりも高いかもしれないが、研究者らは確実に知ることはできない、と注意をうながす。今後の転移研究が重要だ、とクレイリングは言う。「というのは、もし脳に粒子がないのならば、ミクログリアとの相互反応を調べる必要はないからです。たとえそれがごくわずかなものに過ぎないとしても、その相互反応を見なければなりません」----リズ・スロール


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