ナノテク食品をめぐるリスク

--- 2007年01月06日

 国内では、ナノテクノロジーのリスク論争はやや低調の感があるが、英語圏ではかなり盛んで、早くも食品への応用をめぐる議論が勃発している。

 たとえば昨年10月には、食品医薬品局(FDA)の元副長官で、いまはシンクタンクに在籍する人物が、FDAによる規制の不十分さなどを指摘する報告書をまとめた。
 イギリスの科学雑誌『ニューサイエンティスト』は、その内容を次のようにまとめている。
 

FDA too poor to test nano safety
FDA、ナノの安全性を検査するには、あまりにもおそまつ

2006年10月7日
『ニューサイエンティスト・ドットコム・ニュースサービス』

 医療機器や食品包装において、潜在的に危険なナノ素材が登場するかもしれない。というのは、食品医薬品庁はそれらの安全性を評価するための資源を欠いているからだ。
 そう言うのは、ワシントンのシンクタンク「ウッドロー・ウィルソン学術センター」が10月5日に公表した研究である。元FDA副長官マイケル・テーラーによるこの報告書は、同庁の2007年の1900万ドルという予算は、それがナノテクはいうまでもなく、従来の食品や医薬品、医療サービスを規制するのに必要とするものの半分以下である、と警告した。
 結果として、FDAは、それが必要とするナノテクの専門性を持つ余裕がない。それゆえ、FDAは問題を見つけることができないか、あまりに遅く発見することになるだろう、と彼は言う。たとえば、研究者たちは医学的治療におけるカーボンナノチューブを推進しているが、それらがDNAに影響するかどうかについては、陪審団はいまだに存在しないのである。

『ニューサイエンティスト』誌2572号、2006年10月7日、27頁より

『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』に転載された『ニューヨークタイムズ』の記事もまた、この報告書を取り上げ、食品へのナノテクノロジー応用を概観しつつ、FDAの公開ヒヤリングの内容などを伝えている(うまく訳せなかったカ所があるが、ご了承を)。

Risks of engineering a better ice cream
おいしいアイスクリームをつくることのリスク

バーナビー・J・フィーダー 『ニューヨークタイムズ』

2006年10月10日(水曜日)

 もしキャンディ・メーカーの「マーズ」が、「M&Ms」や「スキットルズ(Skittles)」を長時間新鮮に保ち、溶けるのを防ぐために、それらの被覆加工(コーティング)への添加物を考案したら、どうだろうか。ユニリーバの科学者が、プレミアム・アイスクリームの脂肪球(つまりカロリー)を、その味を損なうことなく減少させることができるとしたら。
 そうしたアイディアはまだ実験室の夢である。そのほか多くの食品企業における、こうした研究プロジェクトや製品開発における共通の流れは、ナノテクノロジーである。ナノテクノロジーは、分子1つと同じぐらいの小さい寸法で物質を操作する、数々の技術の名前である。
 食品企業は、この技術を推進することに慎重なままである。この技術は、ナノメートル、すわなち10億分の1メートルのために名づけられたものだが、安全性についての意識の高い消費者にとっては、あまりに遠く、あまりに早すぎるtoo far and too fast ものである。しかし彼らは、食品原料や包装材のような日用品の、価値ある、ときには新規の形態をつくりだすナノテクノロジーの能力にじらされている。ただ、かつては想像もできなったサイズにまでそれらを小さくすることによって。
 ナノテクノロジーの誇大宣伝のほとんど、そして展望の多くは、エレクトロニクスやエネルギー、医療などそのほかの産業のなかに存在している。しかし、ナノテクノロジーにもとづく食品産業の製品の第一世代が、静かに、市場に参入してきている。それには合成食品着色料や揚げ油の防腐剤、抗菌物質で被覆された包装材料などが含まれている。
 ナノテクノロジーという範囲に特化する、イギリスの市場調査会社シエンティフィカCientificaによれば、この技術の商業利用はいま、世界の食品市場3兆ドルのうち合計4億1000万ドルという一片を占めることになる。シエンティフィカは、ナノテクノロジーの株は、そのそのほかでの利用が発展するにつれて、2012年までには580万ドルに成長するだろう、と予測している。
 遺伝子組み換え穀物の導入に対する、一定消費者からの悪い反応を心に留めて、食品産業は、規制当局が、消費者の恐れを和らげる、支持的なガイドラインsupportive guidelinesをもたらすことを望んでいる。このことは火曜日〔10月9日〕、ナノテクノロジーをどのように規制するかをめぐる、アメリカ食品医薬品局の初めての公開ヒヤリングで注目を集めた。とくに食品と食品添加物についての議題の一部として、である。アメリカでは今年、どのような政策変更も予定されていない。
「その信用のために、FDAは、そこには何がないのかについて、手がかりを得ようと試みています」と、その会議で発言するために加わった30団体の1つ、「消費者連合」の研究主幹マイケル・ハンセンは言う。
 しかし、かつての高官による、先週の報告書によれば、ナノテクノロジーの取り扱いはFDAにとって非常に困難な挑戦となるだろう。その分析は「ピュー・チャリタブル・トラストPew Charitable Trust」や、ワシントンの政策団体「ウッドロー・ウィルソン国際学術センター」によって支援されている。
 元FDA副長官マイケル・テイラーは、FDAは能力を欠いており、化粧品やサプルメント、食品については、完全な法的権威が消費者を守り、そして技術革新を助長する必要がある、と言う。
 産業界の代表やアナリストたちは、ナノテクノロジーが遺伝子工学と同じ運命を被ることを心配する。遺伝子工学は、製薬企業にとってのブレークスルーとしてすばやく採用されたが、とくにヨーロッパで穀物や魚、家畜に使われたとき、強烈に反対された。
 農業において遺伝子工学とたたかっている団体の多くは、規制当局がナノテクノロジーを取り締まるよう主張してきた。一般的な、そしてとくに食品や化粧品におけるその利用において、さらなる安全検査が完備されるまでは。
「それがすでに進行しているとはいい難いことに、私は驚きました」と、フィンランドのミネソタに本拠地を置く有機製品の支持団体「有機消費者団体Organic Consumers Group」のディレクター、ロニー・カミングスは言う。「ナノテクノロジーに比べれば、遺伝子工学の脅威は飼い慣らされた、と私は思います」
 これまでのところ、ナノテクノロジーにかかわる公衆衛生や環境の問題の、はっきりとした報告はない。しかし、やっかいな実験的検査が、一部のナノスケールの粒子が新たな健康リスクをもたらすだろうと指摘している。たとえば大きな粒子を締め出すバリアをたやすく通り抜けて脳に到達することによって。それゆえ、この技術を、医薬品を運ぶのに有益なものにする特性は、同時にそれを危険なものとするのだ。
 より重要なこととして、ヒトや環境における、新しく操作されたナノスケールの物質の実際の行動についての、しっかりとした研究が少ないことには、みんなが同意している。達成されたそれらの研究は、ナノ粒子が一般的な商業のなかに現れるであろう条件の範囲の複製にはほど遠い〔意味不明〕。吸入されたり、注入されものではなく、食べられた粒子の運命に焦点をあてている実験的研究は少ない。
「危害の証拠の欠如が、安全性の合理的な確認の代理であってはなりません」と、消費者連合は、火曜日〔10月9日〕の会議で、食品医薬品庁に対する証言のなかでいった。
「安全性の合理的な確認」は、食品企業が、新しい食品添加物を導入できる前に、同庁に対して示さなければならないことである。
 消費者連合やいくつかのそのほかの団体は、同庁は、新しいナノスケールの食品原料を自動的に分類している、と指摘している。それには、より大きなサイズでいま安全であり、新しい添加物として分類されているものも含まれる。そして彼らは、同じ基準を、食品サプルメント企業をカヴァーするよう拡張することを望んでいる。その一部は、伝統的なハーブ治療やミネラル治療の市場化である。その効率を増加する、新しいナノスケールの形態であると彼らがいうものにおいて。なかには、たとえその量がどんなに少なくても、合成ナノスケール材料を使った製品には義務的な表示を要求している団体もある。
 アメリカの医薬品当局の役人たちは、先週、消費者が食品添加物として飲む込む、新しいナノテクノロジー製品すべてを取り扱うことは、技術改革を育むという同庁の権限を傷つけることになるだろうし、それはその権威の外側にあるだろう、と述べた。そのような動きは、そのパイプラインにおける、幅広い範囲のナノスケールの技術革新のための安全検査基準についての同意の欠如によって妨げられた。さらには、同庁はその種の監督を取り扱うスタッフを欠いている。
「それは私たちにとって、大改革になるでしょう」と、同庁の食品添加物安全性オフィスのディレクター、ローラ・タランティノは言う。
 ナノテクノロジーを簡単に定義することもまたハードルになっている。BASFは、その合成リコピンlycopeneのような製品のおかげで、先駆者だと広く見なされている。リコピンは、トマトやそのほかの果物から抽出される天然リコピンの代理品となる添加物である。食品の着色料として広く使われているリコピンは、心臓やがんに対する利益の報告によって、高く評価されている。
 しかしBASFの粒子は平均直径200〜400ナノメートルであり、その天然色素と同じくらいである。多くの専門家が本当のナノテクノロジーだとみなしている100ナノメートルという閾値をはるかに超えている。
 ユニリーバは、その縮小された脂肪球の直径を一度も明らかにしていない。イギリスにいるユニリーバのスポークスマン、トレヴァー・ゴリンは、電子メールで、同プロジェクトについての報告は誤解である、といった。
 新しいナノ製品の消費をめぐるリスクの不確かさを考慮すれば、多くの分析者たちは、新しい食品加工や包装技術に焦点をあてた短期投資を期待している。それは、サニー・オーに興味を抱かせたニッチである。彼が始めたばかりの会社オイルフレッシュOilFreshは、カリフォルニア州サニーヴェールに本拠地を置き、揚げ油を新鮮に保つための最新装置を市場化している。
 オイルフレッシュは、ミネラルの一種ゼオライトzeoliteを、平均直径20ナノメートルの小さなビーズへとすりつぶし、それらを、非公開の物質で包む。揚げ鍋のなかで1つの棚shelfにパックされて〔意味不明〕、そのビーズはオイルを分解し、炭化水素のクラスターをかたちづくる化学過程に干渉する、とオーはいう。結果として、レストランは、オイルを長いあいだ使うことができ、低い温度で熱を食品へと移すことができる。そのオイルから食品残余物を取り除くためには、いまもなお伝統的なフィルターを必要とするのだが。

 イギリスの『タイムズ』もまた、同じ報告書を取り上げつつ、食品へのナノテクノロジー応用を包括的に紹介している。オランダで、大きな会議があったらしい(やはりうまく訳せなかったカ所がある。ご了承を)。
 

『タイムズ』 2006年10月21日付

Body&Soul
身体と魂
Food fight on a tiny scale
小さなスケールをめぐる食品紛争

ヴィヴィアン・パリー

食品企業はナノテクノロジーの活用を模索している。それはGMスタイル戦争の引き金を引きうる。

ノブレークnobreak----ナノテクノロジーは次なる食品戦争の戦場となるのだろう。ハインツやネッスル、ユニリーバやクラフトを含む、世界で最も大きな食品企業10社のうち5社が、良質な包装、高い食品安全性、そしてより優れた栄養素含有量のために、ナノテクノロジーの潜在性を積極的に模索している。
 食品産業はナノテクノロジーを採用するために、ほかの分野よりも早く行動している。ナノテクノロジーは、従来的な顕微鏡では見えないほど小さな物体の製造加工のことである。そしてそれは、2010年までには200億ドル(110ポンド)に値する食品へと組み込まれるだろうと予測されている。
 しかし、人々はその食品を加工されることを望んでいるのだろうか。遺伝子組み換え(GM)食品をめぐる経験は、否、と示唆するだろう。イギリスで入手できるナノテク食品はないが、アメリカにはわずかに存在する。アメリカでは、「ナノハザード」表示を求めるロビイ・グループからの要求がすでに存在するのだが。GMスタイルのナノ戦争は勃発しうるのだろうか。物事は早く動き、来週には、食品や農業におけるナノテクノロジーの利用にかかわる多くの問題が、アムステルダムのナノテクノジー研究所の会議で、提起される。この会議は、ヨーロッパの食品・健康食品産業に対して、たくさんのナノテクノロジー応用を紹介する。
 食品に適用されるナノテクノロジーの応用の多くは、論争的なものではない。「ナノフィルター」の利用はすでに、たとえばミルクのような液体からウイルスや細菌を完全に取り除くことを裏付け、安全性を向上させ、貯蔵寿命を長くしている。同様に、食品や包装にナノスケール検出装置を取り付ける新しい技術をめぐる、小さな議論もある。それゆえ食品原料の源は、起源にまで遡られうる。つまり食品企業が長いあいだ望んできたものだ。
 食品を安全にするためのナノテクノロジーの潜在性をめぐっては、大きな興奮もある。たとえばカンピロバクターCampylobacterは、ニワトリを害することはないが、ヒトには病気を引き起こし、弱者には死をもたらすこともある。ニワトリの飼料に入れるナノ粒子が、南カロライナのクレムソン大学で開発されてきた。同大学はカンピロバクターに取り組み、それがニワトリから取り除かれ、その鳥を食べるのに安全にできることを確かめた。
 蛍光染料の分子で満たされた、ナノスケールのシリカ球体は、肉の包装に使うために開発されてきた。そこではそれらは、致命的な大腸菌0157の存在を検出することになる。球体の表面は、大腸菌の表面で見つかる抗原を探しだし、それに張りつく抗体で覆われている。接触がなされたときには、その表面は文字通り光り、包装の色の変化に結びつく。ポリ塩化ビニルのフィルムに加えられたナノ素材はまた、紫外線による損傷を防ぐ。
 ナノ素材は、包装から食品へと移行しうるだろうか。もしそうならば、その影響はどのようなものだろうか。それは食品安全庁(FSA)から資金を得た研究のテーマなのだが、まだ誰も知らない。それゆえそれは、将来の論争が存在するかもしれない分野の1つである。
 しかし人々の懸念を引き起こす可能性が間違いなくもっと高いのは、食品メーカーが、ナノ素材を食品に直接加えていることに現れているような関心である。というのは、ナノテクノロジーはこのように新しい科学なので、それらを人体に入れることの結果は、未調査の領域なのだ。
 オランダに本拠を置く小企業や研究者たちのコンソーシアム「ナノ4ヴァイタリティNano4Vitality」のキース・エイジケルKees Eijkel博士は、間近に迫ったアムステルダムの会議のスピーカーの1人だが、彼はこう懸念する。「もしあなたがナノスケールの何かを食品に加えているのならば、あなたは適切な検査や規制なく、それを行なうべきではありません」と彼は言う。
 食品メーカーがナノスケールの産物にそのような関心を抱く理由の1つは、それらが細胞膜を通過しうることである。ナノスケールの球体に栄養を組み入れることは、それらを細胞に直接送り込むことによって、栄養補助食品----もしくはときには「栄養補給食品〔ニュートラシューティカルズ〕」と呼ばれるもの----の生体活性を強化しうる。1ダースかそこらのこの種の栄養補助食品が、アメリカでは市場に出ており、健康やフィットネスに熱心な人々によって、熱狂的に受け入れられている。
 カシム・チョードリー博士は、Defra(環境食糧農林省)の中央科学研究所でナノテクノロジー・チームを率いており、FSAに資金を得たナノテクノロジー研究に取り組んでいる。彼は、そのような製品には予期せぬ影響があるかもしれず、そのほかの栄養の、意図された、もしくは改変された服用よりも、はるかに高い吸収性があるかもしれないが、もしあるとすれば、現在知られていることはわずかである、と指摘している。
 食品に直接応用されるナノテクノロジーの潜在的活用のもう1つは、それを乳化の向上に用いることである。それが意味するのは、たとえばマヨネーズなどの製品は、たとえそれらに低脂肪の原料が使われているとしても、分離しないということである。脂肪でいっぱいのものと同じ食感と味を持つ低脂肪製品をつくることは、食品企業にとって大きな挑戦である。興味深いもう1つの分野は、カプセル化技術である。それによって非水溶性製品は、水の中に留まることなく、くまなく拡散できるようになる。またそれによって液体は、ほかのものが加えられたとき、濁ることなく、きれいなままであり続けられる。
 ミネソタ大学のウッドロー・ウィルソン国際センターThe Woodrow Wilson International Centreは「新しいナノテクノロジーに関する計画Project on Emerging Nanotechnologies」を運営してきて、農業や食品生産において期待されている応用を評価してきた。
 それは、食品産業は、ナノテクノロジーの恩恵を現実化するために、ほかのどんな分野よりも急速で動いているが、その開発パイプラインに何があるのかを明らかにすることには乗り気ではないことを指摘した。このことが、製品がリスクをもたらす可能性があるかどうか、正確な評価を行なうことを難しくしている。
 もちろん、ナノ素材がまったくリスクをもたらさない可能性もある。結局のところ、ヒトの免疫系は、私たちが日々食べ、呼吸しているウイルスやアレルゲンの形態においてナノ粒子を取り扱うようにかたちづくれらている。
 私たちが浜辺を歩き、浜風を嗅げば、ナノスケールの塩の粒子が吸入される。ナノ粒子は、火やエンジンからの燃焼産物のなかに見つかり、都市の住民は毎日、混み合った通りで、10億単位ではないものの百万単位で〔それらを〕吸い込んでいる。アバディーン大学名誉教授で、英国学士院のナノテクノロジーに関する研究班メンバーのアンソニー・シートンは次のように指摘する。「人類は、初めて火を燃えし始めて以来ずっと、ナノ粒子にさらされてきたのです」。
 にもかかわらず、英国学士院の研究班は、身体や環境へのナノ素材の影響にかかわる研究の不足を指摘しようと苦心している。
 たとえば「新しいナノテクノロジーに関する計画」は、腸管についてのナノ粒子の影響についての研究を1つも見つけていない。このことは食品産業にとって大きな興味であるはずにもかかわらず。また心配なのは、吸入されたナノ粒子が後に脳組織で見つかり、血管によってつくられた通常のバリアを通り抜けたことを示した研究である。
 このことは、どんなものであれヒトの健康にとって重要性を持つことはなさそうだが、注目すべきものであり、そして適切なリスク評価がケースバイケースの基準で設けられた〔意味不明〕。
 政府は最近、ナノテクノロジーのリスク評価のための、500万ポンドの追加予算を発表した。しかし政府は、証拠にもとづくアプローチを使ってナノテクノロジーを推進していると主張する一方で、このような新しい分野においては、真実は、それを継続するための証拠のはっきりとした欠落が存在することである。政府は、もっと活動的なアプローチを必要としており、研究を推し進めている。
 本当の懸念は、素材のサイズが小さくなったとき、それらはもはや同じ性質を持たないということである。安全上の側面という点でいえば、ある素材についてあなたが知っていることのすべては放棄されなければならない。将来の安全性研究のためには、まったく異なった参照ポイントが必要とされるのだ。たとえば、重量はもはや、毒性における決定的な価値ではないだろう。つまり、有毒物質があればあるほどリスクは高い、とはもういえないのだ。表面積のような因子(ファクター)が、ナノ粒子についてはより重要になりそうである。
 オランダのワゲニンゲンWageningen大学の食品安全性や消費者行動の教授、リン・フリューワーFrewerは、消費者の見解は、スタート地点に戻る必要がある、と言う。「あなたは消費者が何を望んでいるのかを見る必要があります」と彼女は言う。「それは自発的な発露voluntary exposureであるべきです。人々は自分たち自身の決定を下すことを望んでいます」。彼女はアメリカでのスターリンクStarlink論争を指摘きた。そのとき、遺伝子組み換えトウモロコシのあるブランドが動物の消費だけで認可され、結局、ヒトにも認められた。それがヒトの健康を阻害しうるという指摘はないのだが、「GMOに汚染された」(遺伝子を改変された生物と接触を持つ、という意味)というフレーズが繰り返し使われたことや、規制は意図せざる混入を防げないという認識は、食品産業に大きな損害を与えた。
「もし1つのナノテクノロジーで何かがまずくなれば、それはナノテクノロジーすべてにとってまずいことになるでしょう」と彼女は言う。
 それは冷静な考え方である。もしナノテクノロジーの多くの恩恵が世界で拒否されることになれば、それは悲劇となるだろう。というのは、新しい技術の導入をめぐる遺伝子組み換えの教訓は、いまだ学ばれていないということだからだ。

ナノとは何か?
・ナノテクノロジーは、従来的な顕微鏡では見ることのできないほど小さな微粒子にかかわる。
・もしそれがナノメートル(1メートルの10億分の1)で測定されうるものならば、何かがナノスケールにある。比較すると、髪の毛は幅8万ナノメートルであり、DNAは幅およそ2ナノメートル、ウイルスは100ナノメートルである。
・食品産業においては、ミルクからウイルスや細菌を除去するためにナノフィルターが使われてきた。染料を詰められたナノスケールのシリカ球体は、肉における大腸菌検出に使われうる。ナノテクノロジーはまた、マヨネーズのような製品が分離しないよう、乳化を向上させることに使われうる。

 ナノテクへの規制は、世界的に見てもほとんどなされていないと思われるが、アメリカでは、FDA(食品医薬品局)より先にEPA(環境保護庁)が先手をとったようだ。
 

First regulation for nanoproducts
ナノ製品に対する最初の規制

2006年12月6日
『ニューサイエンティスト』印刷版より

 見るのが難しいことは、あなたを法律にとって見えなくさせはしない。ナノ製品が初めて規制されることになる、とアメリカ環境庁(EPA)は決定した。
 現在、問題となっている製品には(通常のサイズの)洗濯機や食品容器、靴の裏地があり、それらはすべて殺菌性の銀のナノ粒子を含む。そうした粒子が幅広い環境における、顕微鏡レベルの植物相を害するかもしれないという恐れがあるのだ。
 EPAは現在、農薬を規制するのに使われているものと同じ基準を使って、そうした製品を規制する計画を立てている。ナノ粒子を含む殺菌性製品を広告する企業はすべて、まず、それらが環境にダメージを与えないであろうことを、EPAに証明しなければならない。
 しかしながら抜け穴も残る。殺菌性成分を含んでいると広告されない製品は、監督から逃れる。たとえば銀のナノ粒子を注入された包帯のような医療製品も同様だろう。医療製品は食品医薬品庁〔FDA〕に規制されている。現在のところFDAは、ナノ規制についての方針を持っていない。

『ニューサイエンティト』誌2580号、2006年12月6日、5頁より


 
 翻って、日本ではどうだろうか。07.1.6

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