「SLAPP」としてのオリコン訴訟

--- 2007年02月15日

 2月13日(水)、烏賀陽弘道さんがオリコンに訴えられ、それに対して反訴した「オリコン訴訟」の第1回口頭弁論が、東京地方裁判所で開かれた。

 烏賀陽さんはその場で、数分間に渡る意見陳述を行なったのだが、その詳しい内容は、本人がすでに自分のウェブサイトで公開しているので、そちらに譲りたい。
 この訴訟のキーワードは、すでに多くのブログなどで言及されているように、「SLAPP」である。SLAPP(Strategic Lawsuits Against Public Participation)とは、直訳すれば「公衆の関与に対する戦略的訴訟」であり、意訳すれば、「恫喝訴訟」あるいは「いじめ訴訟」といったところだろう。
 烏賀陽氏自身も言及しているように、「Answers.com」という便利なサイトが「SLAPP」という用語を解説している。「Answers.com」は「世界でいちばん大きい“encyclodictionalmanacapedia”」とのことだが、「encyclodictionalmanacapedia」をどう訳せばいいのか僕にはわからない。それはともかくとして、「Answers.com」における「SLAPP」の解説の引用元は『West's Encyclopedia of American Law』という事典である。これは印刷版も出ており(というか、もとから書籍なのだろう)、大学などの図書館にも入っているようだ(少なくとも明治学院大学図書館は所蔵している)。
 以下、当該の解説を仮訳する。僕は専門用語にも英文法にも自信がないので、あくまでご参考までに。誤訳や悪訳があったら、ご指摘いただければ幸いです。07.2.15
 

公衆の関与に対する戦略的訴訟(alapps)
Strategic Lawsuits Against Public Participation (slapps)

ある問題について政府の行動を求めるために、公的な場を使って話したり、嘆願したり、そのほかの行動を起こした人々を黙らせ、脅かし、懲らしめることを意図した報復的訴訟

 SLAPPsという頭文字で知られる、公衆の関与に対する戦略的訴訟(Strategic Lawsuits Against Public Participation)という用語は、さまざまなタイプの訴訟に適用されている。そのなかには名誉毀損や中傷、業務妨害や共謀が含まれる。この用語は、1984年、この形態の訴訟を研究し始めた、デンヴァー大学のジョージ・W・プリング教授とペネロープ・カナン教授によってつくられた。プリングとカナンはSLAPPsを、以下のような4つの基準で定義している。「[SLAPPは](1)政府の行動や結果に影響するようなされたコミュニケーションにかかわり、(2)その行動や結果は民事訴訟(告訴や反訴、交差請求)に結びつき、(3)非政府の個人や団体に対して提訴され、(4)一定の公益や社会的重要性をもつ重要な問題についてのこと、である」。
 典型的なSLAPPにおいては、個人や市民の団体、すなわち被告----(プリングとカナンの用語を使えば)「標的〔ターゲット〕」----は、真偽の疑わしい不正行為のために、「提訴者」すなわち原告に訴訟を起こされる。個人や団体が、一連の特定の行動を起こすよう政府を説得するために、憲法で保護されている権利を使ったという理由だけで、である。SLAPPsは、幅広い多様性のある問題について、公的な場で発言した個人や団体に対して直接的に向けられてきた。とりわけ不動産開発や行政当局の行動、環境破壊や公害、不本意な土地利用に対してなされてきた。それらはまた、消費者や労働者、女性、マイノリティなどの権利のために、公的に活動している人々に対しても使われてきた。SLAPPの被告は、たとえば請願を回覧したり、地方紙に寄稿したり、公的な会議で発言したり、法律違反を報告するなど、つまり平和的なデモ行為に参加することについて、訴えられてきた。
 たとえば、商業開発に反対したコロラド州のある環境保護団体は、実際に開発業者から4000万ドルで訴えられた。この訴訟は、この環境団体は「共謀」と「行為の濫用」で有罪であると主張した (Lockport Corporation v. Protect Our Mountain Environment, No. 81CV973 [Dist. Ct., Jefferson County, Colo. 1981])。この訴訟は何年も長びき、その環境団体に対して多大な時間とカネを費やさせ、実際のところ、解散という結果をもたらした。その開発は前進しなかったのだが、団体のメンバーの多くは、法的な懲罰への恐れから、今後、コミュニティとのかかわりを控えることを誓った。
 SLAPPsのターゲットにされた者のなかには、学校の理事会で、危険なスクールバスについての懸念を表明した親の団体もある。その結果、彼らはバス会社から起こされた、68万ドルの名誉毀損訴訟の被告になった。また、あるバーの酒類販売権の更新に抗議した近隣住民が、バーのオーナーによって起こされた800万ドルの名誉毀損訴訟に直面させられたこともある。
 判決はSLAPPsの大多数を、憲法上の権利への侵害として却下している。それらはおおむね、被告の行動は〔アメリカ合州国〕憲法の修正第1項の申し立て条項(the Petition Clause of the First Amendment to the Constitution)によって保護されていることにもとづいている。その申し立ては「不満の救済手段として政府に請願する……人々の権利」を確立している。しかしながら、SLAPPがすぐに却下されない訴訟においては、SLAPPの被告にとっての訴訟のコストは、時間的にも金銭的も、しばしば〔被告〕自身への罰として機能し、その将来、個人が発言を控えるよう導く。SLAPPによって引っぱたかれた----SLAPPされた----個人はしばしば、沈黙するよう訴えられたという印象を報告しており、再び公的な生活に参加しないように忠告されたと感じている----これはきわめてしばしば、SLAPPの提訴者が意図する効果である。SLAPPの提訴者は多くの場合、法廷では敗北するにもかからわず、彼または彼女は、将来の政治的反対を沈黙させるという目的を達成するようだ。
 こうした理由によって、法体系はSLAPPを、訴訟目的のための法律利用の例として、また、市民参加や国民参加への脅威として、幅広くみなしてきた。SLAPPは、批判者たちが主張するように、公的な議論を民営化し、公的な発言や関与への萎縮効果をもたらす。
 SLAPPsはその起源をアメリカ合州国の初期に遡る。当時、市民はときとして、政府の腐敗に対する発言のために訴えられることがあった。しかしながら法廷は一般的にはそうした訴訟を却下し、SLAPPは1960年代や1970年代までには一般的に使われなくなった。そうした数十年のあいだ、多くの問題にかかわる政治活動の波----環境からマイノリティの権利まで----が、影響を受けた側、とりわけ企業や実業界からの名誉毀損や中傷、業務妨害を主張する訴訟を引き起こした。1980年代と1990年代には、多くの評者が、SLAPPsは、アメリカの政治システムにおける〔人々の〕参加を深刻に妨げている、と主張した。
 個人や政府は、SLAPPsの増加に対して、幾多の異なった方法で反応した。SLAPP訴訟の標的は、ときには反訴----「SLAPPバック」として知られるプロセス----し、しばしばSLAPPの提訴者と同じ主張をつくり上げた。すなわち悪意訴追であり、行為の濫用であり、名誉毀損であり、業務妨害である。SLAPPバックを提訴した人々は一般的に、法廷では成功しており、陪審員によって、金銭による和解を勝ち得てきた。SLAPPバックの擁護者らは、それらは、SLAPP提訴者たちに対する不可欠な抑止である、と言う。
 アメリカ最高裁判所の判決は、SLAPPsの急速な再審理や却下を支持するようになってきている。初期の訴訟で確立された基準を用いれば (Eastern Railroad Presidents' Conference v. Noerr Motor Freight, Inc., 365 U.S. 127, 81 S. Ct. 523, 5 L. Ed. 2d 464 [1961], and United Mine Workers v. Pennington, 381 U.S. 657, 85 S. Ct. 1585, 14 L. Ed. 2d 626 [1965])、法廷は、コロンビア市対オムニ・アウトドア・アドバタイジング社、499 U.S. 365, 111 S. Ct. 1344, 113 L. Ed. 2d 382 (1991年)において、修正第1項の申し立て条項は「意図や目的にかかわらず、行政当局に影響を与えようとするための一致団結した努力」を保護する、と判決を下した。法廷は、SLAPPsは、標的の行動が有益な政府の行動の増幅へとまっすぐに向かっていない場合を除き、すべての訴訟において却下されるべきであることを支持している。
 多くの州が、SLAPPsを防止し、公的活動への参加の権利を守ることを意図した法律を可決してきた。ワシントンは、1989年、反SLAPP法を可決した最初の州になった。1996年までにそのほか8州----カリフォルニアやデラウェア、マサチューセッツ、ミネソタ、ネブラスカ、ネバタ、ニューヨーク、ロードアイランド----が同様の法律を可決した。たとえば、1994年の「ミネソタ市民参加法 (Minn. Stat. § 554.01-05)」は、その標的の行動が政府の行動を導くように向かっていないと提訴者が証明できる場合を除き、SLAPPを却下するよう法廷に要求することによって、公衆の参加を保護している。この法律はまた、証明の義務をSLAPPの提訴者へと転換させており、また、もしそのSLAPPが成功しなかったときには、SLAPPの標的が弁護士手数料やコスト、損害を受け取ることを認めている。(粥川準二仮訳)

追記:
「Answers.com」の引用元である『ウェストのアメリカ法事典West's Encyclopedia of American Law』は現在第2版が流通しており、全部で13巻もある。明治学院大学図書館のレファレンス本のコーナーを見た限りでは、類書のなかで最も重厚なものだった。07.2.18
 
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