カリフォルニアの「反SLAPP法」

--- 2007年02月25日

 しつこく繰り返すが、オリコンがジャーナリストの烏賀陽弘道さんを名誉毀損で訴え、それに応じて烏賀陽さんがオリコンに反訴した「オリコン訴訟」で、最も重要なキーワードの1つは「SLAPP」、すなわち「公的な関与に対する戦略的訴訟」である。「スラップ」と発音し、意訳すれば「恫喝訴訟」、「いじめ訴訟」であろう。

 すでに多くのブログなどで言及されている通り、アメリカでは複数の州が、SLAPPを禁じる法律、すなわち「反SLAPP法」を制定している。なかでもその動きが最も活発なのがカリフォルニア州で、「カリフォルニア反SLAPPプロジェクトThe California Anti-SLAPP Project」のウェブサイトが多くの情報を提供している。同プロジェクトは、1991年、カリフォルニア市民が政府や市民的案件に参加し、公的な問題について自由に発言する権利を守るために設立された「公益法律事務所public interest law firm」である。
 どの資料も非常に興味深いのだが、取り急ぎ、「SLAPP被害者のためのサヴァイバル・ガイド」という文書の「はじめに」を仮訳しておく。例によって専門用語にも英文法にも自信がないので、あくまでご参考までに(誤訳・悪訳の指摘は歓迎します。左下の「みずもり亭日誌」をクリックして、そのページからメールしていただければ幸いです)。

カリフォルニア反SLAPPプロジェクト
California Anti-SLAPP Project

SLAPP被害者のためのサヴァイバル・ガイド
Survival Guide for SLAPP
Victims

はじめに

 アメリカ合州国とカリフォルニアの憲法は、すべての人に、政府や市民的な事柄に参加し、公的な問題について自由に発言し、そして不平の救済のために政府に嘆願する権利を保障している。にもかかわらず、個人やコミュニティ団体がそうした憲法的権利を行使したために提訴されている。こうした訴訟は「SLAPPs」、すなわち「公的な関与に対する戦略的訴訟」として知られている。

SLAPPsとは何か?

 一般的に「SLAPP」とは、(1)民事訴訟もしくは反訴要求であり、(2)個人もしくは組織に対して提訴され、(3)公的な関心や懸念についての、政府とのコミュニケーションや発言から生じる。SLAPPsはしばしば、企業や不動産の開発業者、政府当局などによって、公的な懸念のある問題について彼らに反対する個人やコミュニティ集団に対して起こされる。SLAPP提訴者はしばしば、通常の市民的な主張にもとづく訴訟を利用する。たとえば名誉毀損や共謀、悪意訴追、妨害、契約と経済的利点のどちらかもしくは両方への干渉であり、それらを、公的な議論を訴訟へと転換させる手段として利用するのだ。
 最終的には、ほとんどのSLAPPsは、法的には成功しない。にもかかわらず、ほとんどのSLAPPsは法廷では成功しない一方で、彼らは公的な分野では「成功した」。これは、あるSLAPPへの防御は、たとえ法的防御が強力な場合であっても、相当量のカネや時間、資源の投資を必要とするためである。その結果として生じる効果は、重要な公的問題への人々の参加、そして開かれた議論を「萎縮させる」。この萎縮効果は、SLAPPの被告に限定されない----ほかの人々も公的な関心のある問題について発言することを控えるようになる。自分たちの発言で訴えられることを恐れて。
 SLAPPの提訴はまた、論争中の公的問題の解決を遅らせる。関係者を、その論争の原因と解決の両方が決定されうる、公的な意志決定の場から引き離し、彼らを、公的な論争への真偽の疑わしい「効果」のみが決定されるような法廷へと置くことによって、である。たとえば、居住地域に焼却炉を設置するべく建築規制の適用除外を求めている企業を想像してみよう。地元住民が市議会に対して反対を表明したとき、その企業は彼らを「契約への妨害」で訴えるのだ。その訴えを聞く判事は、本当の問題----焼却炉の設置----について決定を下すことはできない。相当量の司法的資源を、真偽の疑わしい「損害」、もしくは本当の問題についての公的な議論による、そのほかの結果といった、副次的な問題について決定を下すために費やすことになる。
 毎年、何千人もの人々が政府への関与や公的問題についての発言で訴えられている。SLAPPの標的は、以下のような、幅広い種類の〔憲法で〕保護されているprotected発言や表現活動で訴えられてきた。

*編集者に手紙を書くこと
*嘆願を回覧すること
*当局を呼ぶこと
*警察の不正行為を報告すること
*自分自身の持ち物に標識をかかげたり、横断幕を飾ったりすること
*学校における教師の不正行為や危険な状態について学校に不平を述べること
*公的な会議で発言すること
*違法活動を報告すること
*連邦議会や州の議会で証言すること
*活動中の公的な利益団体の当局として発言すること
*公益にかかわる訴訟を提起すること

 カリフォルニアには、人々をSLAPPから特別に守る法律がある。民事訴訟法425.16条項は1993年に発効し、判事が、そのSLAPPが勝利の「可能性probability」を持つかどうかを、訴訟の発生の段階で決定することを認めている。もしその判事が、持たないと考えたときには、そのSLAPPは却下され、SLAPPの標的は、彼または彼女の法的防御にかかったコストと弁護士費用を得ることになる。
 この新しいカリフォルニア法で保護された表現活動は幅広い。民事訴訟法425.16条項は、この法律で守られる活動を以下のように定めている。

 *法律で公認された立法、執行、司法、そのほかの公的な手続きに先立ってなされた、書面もしくは口頭の発言、もしくは書類のすべて

 *立法、執行、司法機関によって考慮もしくは再検討中の問題に関連してなされた、書面もしくは口頭の発言、もしくは書類のすべて、もしくは法律によって公認されたそのほかの公的手続きすべて。もしくは、

 *人々に開かれた場所、もしくは公的利益の問題にかかわる公的な場でなされた、書面もしくは口頭の発言、もしくは書類のすべて

 *嘆願の憲法的権利、もしくは公的問題に関連する自由な言論の憲法的権利の行使の促進における、そのほかの行ないすべて

 ほかの州もSLAPPsに対する同様の保護策を持っている。ほかの州の法律のテキストや法廷の意見は、「ほかの州:法律と判例」を参照のこと(あなたは私たちのホームページ、もしくは私たちのウェブサイトの主要セクションのメニュー・バーからそうした資料にアクセスできる)。
 SLAPPsをめぐる包括的な議論については、ジョージ・プリングとペネロープ・カナンの著作『SLAPPs:発言のために訴えられること SLAPPs: Getting Sued for Speaking Out』を参照のこと。

あなたはいかにして、それがSLAPPであるとわかるのか?

 SLAPPsはすべて、公的な関心に向けられた表現活動から生じる。SLAPPsはしばしば、通常の民事訴訟として、不法行為tort法もしくは個々の司法法injury lawの伝統的理論にもとづく通常の民事訴訟として「カムフラージュ」される。そのなかで、もっともしばしば使われる法理論は以下のようなものである。

名誉毀損   これは幅広く定義されるもので、真偽の疑わしい意図的で不正なコミュニケーションであり、書かれたものとして出版されるか(中傷)、もしくは公的に話されるか(誹謗)、であり、ある者の評判を傷つけるものである。
 
プライバシーの侵害   これは、ある者の人格の不法な使用や利己的利用を意味し、ある者のプライベートな出来事を公表することである。人々は当然の懸念を持たず、また、ある者のプライベートな活動への不当な侵害を持たない〔意味不明〕。

悪意訴追もしくは誣告   ある「悪意訴追malicious prosecution」は犯罪であるか、メリットを欠く訴訟であるとの認識で始まり、その主張についての司法判断を求めるのではなく、ほかの理由(たとえば嫌がらせたり、困らせたりすること)のために起こされる。訴訟を起こされた人を脅し、罰するために法的プロセスを使うことは、一般的に、「誣告abuse of process」とみなされている。

共謀   共謀conspiracyとは、2人かそれ以上の人が、違法な、非合法の、もしくは不正な行為を行なうための、真偽の疑わしい同意である。

契約や経済上の利点の妨害   これは、2つの人々のあいだの契約に干渉したり、それを侵害したり、もしくはそうした人たちのあいだに存在する業務関係を妨害することを意図する行為の、真偽の疑わしい実施にもとづく。

感情的苦悩の意図的な押しつけ   これは、あるていど侮辱的な行為の真偽の疑わしい実施にもとづく。それには、その行為が、他者の深刻な精神的もしくは感情的苦痛をもたらすであろうという意図や認識がともなう。

妨害行為   これは、生命や健康を危うくする、もしくは危うくするかもしれないことすべて、その感覚を攻撃し、良識ある法律を違反し、財産の利用や楽しみを妨害する、もしくは妨害するかもしれないことすべてを含む。

差し止め命令   この訴訟First Amendmentは、修正第1項の活動に対する、一時的な制限命令や差し止め命令を求めるものである。

 このリストは包括的なものではない。ある訴訟がもとづく文脈(コンテキスト)も特定の法理論も、ある特定の訴訟がSLAPPであるかどうかを決定することには重要ではない。もし、その訴訟を引き起こした活動が憲法で守られた言論もしくは嘆願活動であるならば、その訴訟はSLAPPなのだ。
 SLAPPの提訴者がすべて悪意を持つわけではないと認識することは重要である。SLAPPの標的がすべて善意にもとづいているわけではないように。その関係者の主観的動機----不実や悪意、浅はかさ、脅し、メリットについての正しさや誤りでさえ----は無関係である。その唯一の重要課題は、〔憲法で〕保護されている表現活動が訴訟を引き起こし、そしてそれがそれゆえに危うくなっているかどうか、ということである。

〔後略〕(粥川準二仮訳)

 以上、とりあえず、カリフォルニア州における反SLAPP法制度の概略がおわかりいただけたと思う。そう、日本も1日も早く、「カリフォルニア化Californication」する必要があるのではなかろうか。
 また余談だが、ベースギターで、親指で低音弦を叩き、人差し指や中指で高音弦を引っ張るようにして弾くことを「スラップ奏法」という。フュージョンやファンクで多用される奏法で、少し前までは「チョッパー奏法」とも呼ばれていた。なお烏賀陽弘道さんはベーシストでもある。烏賀陽さんは近々、ステージではみごとなスラップ奏法を、法廷では完璧な反SLAPP奏法を、僕たちに見せてくれるだろう。
 Let's Californication ! 07.2.25

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