体性幹細胞研究をめぐる疑惑

--- 2007年03月23日

「体性幹細胞adult stem cell」は、ES細胞(胚性幹細胞、embryonic stem cell)とは異なり、胚を破壊することなく得られるので、英語圏では「倫理的な幹細胞ethical stem cell」と呼ばれるものの1つに数えられている。

 確かに、成人の身体のどこかから、ES細胞のようにさまざまな種類の細胞へと分化させられる幹細胞を得ることができれば、レシピアント自身をドナーにすることができ、「治療」と「免疫拒絶反応の軽減」を同時に達成することができるかもしれない。とすれば、クローン胚を用いる「セラピューティック・クローニング」なども不要となる。
 まさに夢のような話だが、現実には、体性幹細胞の単離(樹立)は、かなり難しいらしい。2002年にアメリカの研究者らが、マウスの骨髄から、ES細胞と同じぐらいの多能性を持つ「多能性成体前駆細胞(MAPCs)」を単離したと発表したが、これまで誰もその結果を再現できなかった。
 そして最近、彼女らの研究には、かなり大きな問題があるということがわかってきた。しかもその事実は、イギリスの科学雑誌 『ニューサイエンティスト』による調査報道で明らかになってきたのだ。いちおう断っておくと、『ニューサイエンティスト』は、『ネイチャー』や『サイエンス』のような学術雑誌ではなく、キオスクなどでも売っている一般向け科学週刊誌である。
 韓国におけるファン・ウソクらの「スキャンダル」の曝露には、インターネット新聞『プレシアン』の活躍が大きく貢献した。今回の『ニューサイエンティスト』の仕事は、それに匹敵する仕事であろう。
 

体性幹細胞は少なくとも血液をつくる
Adult stem cells can at least make blood

2007年1月25日12時42分
『ニューサイエンティスト・ドットコム・ニュースサービス』
ピーター・アルドウス

 それらは胚性幹細胞に対する「倫理的な」代替だと歓迎されていた----身体のどんな組織にも変化しうる体性〔成体〕幹細胞である。〔その実験に対する〕疑念がふくらんでいるのだが、いま、ある突出した懐疑論者が、1つの主張が真実らしいことを示した。つまりそれらは、血液で見つかるすべての種類の細胞を形成しうるのだ。
 アメリカのミネソタ大学のキャサリン・ヴァーフェイルとその同僚らは、2002年、「多能性のある」成体前駆細胞(MAPCs)について説明した。哺乳類の骨髄細胞から単離されたそれらは、間葉幹細胞mesenchymal stem cellsと呼ばれる種類に属し、通常、筋肉や骨を形成する。しかしながら、MAPCsはさらにもっと多能性を持つらしく、身体のどんな組織をも形成することができる(「これはその1つなのかIs this the one?」を参照)。
 その後、別のチームがその結果を繰り返そうと奮闘してきた(「延期された幹細胞の奇跡Stem cells' miracle postponed」を参照)。しかしいま、ヴァーフェイルは、米カリフォルニア州のスタンフォード大学のアーヴィング・ワイスマンとチームを組んでいる。MAPCsを、放射線をあてられて、その血液幹細胞(HSCs)----血液をつくり出す、また別の種類の骨髄細胞----を取り除かれたマウスに移植するために、である。「最初、私は、MAPCsが血液の形成に寄与しうるということに、とても懐疑的でした」とワイスマンは言う。

陪審は蚊帳の外

 いま、彼は自分の調子tuneを変えている。つまり、移植されたMAPCsは、すべての種類の血液細胞を形成できる、と。「マウスのMAPCsは、通常の血液をつくることができ、また、私たちは、それらがどのようにしてそうなるのかを理解する必要があります」とワイスマンは言う。
 しかしながら、MAPCsは、骨髄への移植や血液への分化においては、HSCsよりもずっと非効率的である。「このことは、私たちが[ヒトMAPCsを]ヒトに移植するために使うようになる前に解決される必要があります」とヴァーフェイルは言う。彼女はいま、ベルギーのルーベンにあるカソリック大学にいる。
 そしてその陪審員juryは、MAPCsについてなされたそのほかの主張をめぐっては、いまだに蚊帳の外still outである。その最新の実験が血液の形成を調べることに特化されてデザインされたにもかかわらず、ワイスマンは、その動物の身体の至るところに傷害を引き起こすのに使われた放射線量を記している。これは、修復機構の引き金を引くであろうし、MAPCsに、ある範囲の組織を形成する機会を与えうる。「私は、血液細胞だけが派生されたのを見て、失望しました」とワイスマンは認めている。

参照ジャーナル:『実験医学ジャーナル』(第204巻、129頁)

関連記事
羊膜が、後の人生のための「修復キット」」を提供する
* http://www.newscientist.com/article.ns?id=mg19325865.800
* 13 January 2007
動物-ヒトのハイブリッド・クローニング、延期される
* http://www.newscientist.com/article.ns?id=dn10939
* 11 January 2007
幹細胞治療をめぐるがんの警告
* http://www.newscientist.com/article.ns?id=mg19325852.400
* 06 January 2007

ウェブリンク
『実験医学ジャーナル』
* http://www.jem.org/

欠陥のある幹細胞のデータ、撤回される
Flawed stem cell data withdrawn

2007年2月15日
『ニューサイエンティスト・ドットコム・ニュースサービス』
ピーター・アルドウス、ユージニー・サミュエル・ライク

 それはここ5年間で、最もよく知られている幹細胞の論文の1つであり、胚性幹細胞と同じ展望を持つと思われる体性〔成体〕幹細胞について説明している。いま、『ニューサイエンティスト』による以下のような調査によって、その論文に含まれるデータの一部は、疑問を呈されている。
 2002年、ミネアポリスにあるミネソタ大学のキャサリン・ヴァーフェイルに率いられたチームは、齧歯類の骨髄細胞から単離した「多能性成体前駆細胞multipotent adult progenitor cells」、すなわちMAPCsについて説明した(『ネイチャー』第418巻41頁)。そうした細胞は、身体の組織のほとんどへと発生できると思われた。
 それまでは、胚性幹細胞(ES細胞)だけがそのような多能性を示していて、この研究は、ES細胞研究の反対者たちに注目された。彼らは、この研究は、〔ES細胞と〕同様の多能性を持つ細胞を、ヒト胚を破壊することなく得ることができると証明した、と主張した。
 この結果は、繰り返すことが難しいとわかった。2003年の終わりから6カ月以上経っても、ヴァーフェイルのグループ自身ですらその細胞を単離することができなかった。『ニューサイエンティスト』がより厳密に調べたところ、私たちは、『ネイチャー』の論文から6つのプロットsix plotsを発見し、その補足情報は、ほぼ同じときに『実験血液学』(第30巻896頁)で公表された、第2の論文に複製されたことを発見した。それらは、異なるマウスから採取された、異なる細胞を意味するとみなされているにもかかわらず、である。そのプロットplotsは、おそらくMAPCsの特徴である、その細胞の表面の「マーカー」分子について説明した。

「コンセンサスの意見」

『ニューサイエンティスト』がその結果に疑問を呈した後、専門家の委員会がそのデータを再検討した。いまではベルギーのルーベンにあるカソリック大学(KUL)にいるヴァーフェイルは、その後、その2本の論文中のデータにある問題を伝える書簡を、その2つの雑誌に書いており、以下のように述べている。「このデータには欠陥があり、MAPCマーカーの分析結果の正確な説明として信頼されるべきではないというのが〔専門家たちの〕コンセンサスであった」。
 彼女が言及している欠陥は、これらの論文における重複duplicationsにはかかわっていない。これらの重複は、単なる取り違えだった、とヴァーフェイルは『ニューサイエンティスト』に語った。彼女は、MAPCsは身体の組織のほとんどへと発生できるという主張に立っており、その後の論文が、それらを確認するための信頼できる方法を説明している、と主張する。彼女の最も最近の論文では、ヴァーフェイルと、カリフォルニアにあるスタンフォード大学の幹細胞生物学者アーヴィング・ウェイスマンが、血液で見つかる、すべての種類の細胞へ発生しうることを示したが、MAPCsが、彼女がもともとの『ネイチャー』の論文で主張したものと同じくらい多能性を持つのかどうかは、いまだに不明瞭である。
 多くの研究者らは、それらを単離することさえできない。「それらはとても不機嫌な細胞なのです」と、ハーヴァード大学のエイミー・ウェイジャーズは意見を述べる。彼女はヴァーフェイルの研究室で、そのテクニックを学ぼうと試みて、無駄に1週間を過ごした。
 マーカーの分析結果にともなう問題は、そうした困難を説明するのに役立つかもしれない。「もし私が2002年以降にこのレシピにしたがっていたら、かなり怒ったでしょう」と、カリフォルニアのラホーヤにあるバーナム医学研究所の幹細胞生物学者ジェーン・ローリングは言う。
「私たちは、彼女が言及している、この問題のさらなる詳細について著者と接触しており、その後、おそらく外部からの助言を得て、どのように対応するか決定することになるでしょう」と、『ネイチャー』編集主幹のフィリップ・キャンベルは言う。

関連記事

体性幹細胞は少なくとも血液をつくる
* http://www.newscientist.com/article.ns?id=dn11026
* 25 January 2007
幹細胞:延期された奇跡?
* http://www.newscientist.com/article.ns?id=mg18925421.600
* 11 March 2006
これはその1つなのか?
* http://www.newscientist.com/article.ns?id=mg17323270.300
* 26 January 2002

ウェブリンク

キャサリン・ヴァーフェイル、ルーベンのカソリック大学
* http://www.kuleuven.be/cv/u0048658e.htm
『ネイチャー』
* http://www.nature.com/index.html
『実験血液学』
* http://www.elsevier.com/wps/find/journaldescription.cws_home/601451/description#description

『ニューサイエンティスト』誌2591号、2007年2月15日、12頁より

幹細胞の知見をめぐる新たな疑問
Fresh questions on stem cell findings

2007年3月21日
『ニューサイエンティスト・ドットコム・ニュースサービス』
ピーター・アルドウス
ユージニー・サミュエル・ライク

 新たな疑問が、体性〔成体〕幹細胞について最も成功した研究のある部分を包囲している。2回続けて、『ニューサイエンティスト』は、明らかに複製されたデータが、異なる実験の結果を記述するために使われていることを発見した。ミネアポリスにあるミネソタ大学の科学者たちのグループによって公表された研究において、である。
 この研究は、多くの種類の組織へと変容する、はっきりとした能力を持つと思われる、ある腫の体性幹細胞にかかわるものである。この種類の細胞は、医学研究における、ヒト胚性幹細胞の代替として、一部の活動家や政治家たちに推奨されてきた。ES細胞の使用はある種の人々にとっては受け入れがたいのだ。というのは、それら〔ES細胞〕は、その過程において破壊された胚からしか得られないからである。
 2002年6月、ミネソタのキャサリン・ヴァーフェイルのチームは、『ネイチャー』(第418巻41頁)である論文を公表し、身体の組織のほとんどへと発生しうると思われる、マウスの骨髄細胞に由来する幹細胞の一群について説明した。このことは驚きであった。というのは、体性幹細胞は一般的に、狭い範囲の種類の細胞のみを形成できるからだ。ヴァーフェイルのチームはこれらの細胞を「多能性成体前駆細胞」、すなわちMAPCsと呼んだ。ほかの研究者らは、その後、その研究を再現することが難しいことを知った(「まねできない偉業A hard act to follow」を参照)。
 こうした困難を見て、『ニューサイエンティスト』は1年以上前に、この『ネイチャー』の論文を綿密に調べることを決断した。私たちは、そのなかの画像の一部が、ほぼ同時に公表された第2の論文にも登場することを発見した。そこでは、それらは、異なる実験にかかわるものであるとみなされていた(「欠陥と重複Flaws and duplications」を参照)。
 そこで『ニューサイエンティスト』は、MAPCsの単離と使用をカヴァーする、2006年に認められた、アメリカの特許(番号7015037)を調べた。この特許は、オハイオのクリーヴランドにあるアセルシスAthersysという会社に、独占的にライセンスを供与している。同社は、心臓麻痺や卒中といった症状を治療するために、この細胞の臨床試験を始めることを望んでいる。
 この特許のなかには、ヴァーフェイルのグループの別の論文から複製されたと思われる、3つの画像がある。別の論文というのは、2001年に『血液』誌(第98巻2615〜2625頁)で公表されたものだ。これらの画像は、MAPCsが培養皿のなかで発生し、ほかの種類の細胞へと分化するようつくられた実験にかかわるものである。たとえば、骨や軟骨、脂肪、血管の内側で見つかる細胞のことである。これらの画像は、生産されている、それぞれの種類の細胞に特異的なタンパク質の存在を立証するものである。
 問題なのは、それぞれのケースにおいて、この複製された画像が、『血液』論文で説明されたものとは異なるタンパク質の生産を説明するために、この特許において使われたことである。
 なかでも最も衝撃的な例においては、この複製された画像の1つが、2つの異なる実験の結果を示すために、『血液』論文それ自体のなかで2回使われていたらしいことである。この『血液』論文においては、ゲル上の3つの帯の列を示すこの画像は、まず、ある実験の対照群を示すために使われた。そこでは、骨で見つかる細胞へと分化するように、幹細胞の培養が行なわれた。同じ画像と思われるものが、その後、同じページで使われた。このとき、それは水平にひっくり返され、鏡像をつくり、そして、いくつかの小さな改変を含んでいる(左下の上2つの画像を参照)。ここでは、それは、軟骨で見つかる細胞へと変化するようつくられた幹細胞の培養におけるコラーゲンの生産を示すものだと記されている。
 この特許において、反転され、改変されたこの画像は、また再び現れる。今度はおそらく、骨の細胞へと分化するようつくられた幹細胞の培養において見つかる、骨に特異的なタンパク質を示すものとして(左下の下の画像を参照)。
『血液』論文で説明されたこの研究は、その第1著者モライマ・レイエスMorayma Reyesの博士号研究の一部を形成しており、反転され、改変されたヴァージョンを含む、この論文において複製された画像は、彼女の学位論文のなかにも現れる。現在、シアトルのワシントン大学にいるレイエスは、発明者の1人として、その特許に名前を挙げられている。彼女の指導者であるヴァーフェイルや、ミネソタ大学の実験医学および病理学部門を率いるレオ・フルフトFulchtと並んで、である。現在、アメリカ実験生物学学会連盟の議長であるフルフトは、MCLという会社を設立した。同社は、ミネソタ大学とともにに、特許のライセンスを供与されている。
『ニューサイエンティスト』が接触した幹細胞生物学者たちは、上記のことを意味する3つの画像が複製duplicatesであることを確信している。「それらは間違いなく同じものです」と、カリフォルニアのラホーヤにあるバーナム医学研究所のジェーン・ローリングは言う。「データの一片が、異なることを示すために複数回使われたようです」と、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の発生および幹細胞生物学プログラムを率いるアーノルド・クリーグスタインは同意する。
『血液』論文は、『ネイチャー』で続けられた公表ほど知られてはいないにもかかわらず、計画中の臨床試験においては、それは重要である。というのは、それは実験マウスではなく、ヒトのボランティアの骨髄から単離された細胞について説明しているからだ。
 現在はベルギーのルーベンにあるカソリック大学(KUL)にいるヴァーフェイルとレイエスは、このはっきりとした複製について説明を求めた『ニューサイエンティスト』からの質問に対応することができていない。アセルシスAthersysは、私たちが挙げた点を再検討することになるだろうと言い、ミネソタ大学は、コメントはないと言った。
『ニューサイエンティスト』が接触した後、『血液』はいま、独自の調査を実施中である。「私たちは、このことに厳格な調査を行なうつもりです」と、同誌の編集主幹で、カリフォルニア大学サンディエゴ校の血液学者であるサンフォード・シャッティルは言う。

まねできない偉業

 すべての者が、MAPCsとして知られるキャサリン・ヴァーフェイルの幹細胞について、1つのことに同意できている。すなわちそれらは、研究することがきわめて難しいということだ。MAPCsの単離は注意深い実験室培養を必要とし、複雑なレシピにしたがわなければならない。そしてこのレシピにしたがおうと試みた何人かの研究者らは、いまだにMAPCsを得られていない。
 その細胞の表面にある「マーカー」分子を説明する実験についてヴァーフェイルが認めた欠陥は、そうした困難の原因となっているようだ。しかし、先月、『ネイチャー』に送った書簡のなかで、ヴァーフェイルは、そうではないと指摘し、彼女の研究グループによる後の論文は、『ネイチャー』で最初に公表されたマーカーの分析結果を確認している、と述べている。
 にもかかわらず、ヴァーフェイルと彼女の同僚は、2003年の終わりから6カ月以上のあいだ、彼女ら自身もMAPCsを単離できなかった後、時間をかけて、その培養方法の詳細を変えてきた。彼女の最も最近の論文の記述もまた、いくつかの点で異なっている。たとえば、それらはいま、「c-kit」と呼ばれるマーカーを持っている、と言われている。『ネイチャー』論文では、持っていないとされていたものだ。
「後の研究が異なる細胞群を使ったのか、それとも異なる培養条件下でいくらか異なるように見える、同じ細胞を使ったのかは、不明瞭なままです」と、アナーバーにあるミシガン大学の幹細胞生物学者ショーン・モリスンは言う。
 ヴァーフェイルは、複数のグループが自分の研究の見知を繰り返したと言うのだが、誰も、その『ネイチャー』論文における最も衝撃的な実験を再現してはない。これは、その胚発生の初期に、ある1つのMAPCを注入されたマウスを通じて、ある側面を示した〔意味不明〕。そのマウスは、その細胞がほとんどの動物組織に寄与することを示すために、傷つけられたものである。これまでのところ、胚性幹細胞だけがそのテストをパスした。
 マサチューセッツ州ケンブリッジにあるホワイトヘッド生物医学研究所のルドルフ・ヤーニッシュは、ヴァーフェイルのチームのメンバーであるYuehua Jiangが、『ネイチャー』論文が出る前に、MAPCsの培養のために彼の研究室を訪れ、その実験を試み、繰り返した、と言う。彼は成功しなかった、とヤーニッシュは言う。Jiangが去った後、ホワイトヘッドのチームは、その細胞を成長させられなかった。
 Jiangにコメントを求めることはできなかった。ヤーニッシュは、MAPCsは、マウス胚で見つかる細胞よりもずっとゆっくりと分割するので、彼はつねに、それらが胚細胞と張り合え、『ネイチャー』で報告されたような衝撃的な結果をもたらしうることを疑っていた。

欠陥と重複

『ニューサイエンティスト』が、2005年12月、MAPCsとして知られる幹細胞をめぐるキャサリン・ヴァーフェイルの研究を調査し始めたとき、私たちはすぐに、彼女の『ネイチャー』論文における6つのプロットsix plotsと、2002年6月に公表された、オンラインの補則情報が、その年の8月、『実験血液学』(第30巻896頁)で公表された論文にも登場したことを発見した。その論文では、それらは、異なるマウスから得られた、異なる細胞にかかわるものだとみなされていた。
 問題のプロットplotsは、その細胞の表面に付着している、独特な「マーカー」分子を説明するものである。私たちが2006年2月、ヴァーフェイルに接触したとき、彼女は私たちに、この図表は彼女の研究室のYuehua Jiangという研究者によってつくられたもので、ミネソタ大学の当局にこの問題を持ち込んだ、と話した。同じ月、彼女は『実験血液学』に訂正を送り、いくつかのプロットplotsは、『ネイチャー』論文からのものだと認めた。
 2006年8月、同大学は、その重複duplicationsを調査するために、3人の科学者からなる調査委員会を招集した。その翌月、同委員会は、それらは悪意のない間違いの結果であると認めた。しかし同委員会は第2の問題を提起した。そのメンバーのうち2人は、マーカーを調べるために使われる技術の専門家なのだが、彼らは、これらの結果には「その質をめぐる深刻な懸念」が存在する、と言った。とりわけ、特定のマーカーが存在するかどうかを判断するための比較に使われる対照実験に問題があったのだ。
 その科学者のどちらも幹細胞生物学者ではない。それゆえ、その次に、この分野の専門家が独立した科学的再検討を実施するよう要請された。幹細胞の専門家2人が自分たちのコメントを述べた後、ヴァーフェイルは先月、『実験血液学』と『ネイチャー』に書簡を送り、彼らに、論文中のプロットplotsは「MAPCのマーカー分析結果の正確な説明として信頼されるべきではない」と知らせた(『ニューサイエンティスト』2月17日号、12頁)。『実験血液学』は彼女の書簡を公表し、『ネイチャー』はどのように進めるかを決める前に専門家の助言を求めている。

『ニューサイエンティスト』誌2596号、2007年3月21日号、12〜13頁より

 念のため確認しておきたいことがある。
 第1に、あることの「可能性(できるか、できないか)」を問うことと、あることの「正当性(正しいか、正しくないか)」を問うことは、概念的には、いちおう別次元のことである。今回の報道によって、体性幹細胞による自家移植治療の実現「可能性」が低くなったとしても、他人の身体に由来するもの(たとえば卵子)をあてにしなくてもよいというメリットは、やはり追求し続ける価値があるだろう。
 第2に、しかしながら、「可能性」への問いと「正当性」への問いとのあいだには、つながりもある。科学者はしばしば、「ヒトのことはヒトで試さないとわからない」と口をそろえて言う。かといって、実験動物を使った基礎的な研究で、その実現「可能性」が見込まれていないようなことを、人間で試すことが正当化されるわけではない。体性幹細胞による自家移植治療には、他人の身体に由来するものをあてにしなくてもよいというメリットがあるとしても、やみくもに人間で試せば、それは無意味かつ危険な人体実験にほかならないはずである。07.3.23

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