ウクライナからの噂? それとも……

--- 2007年05月26日

 僕はオーム社の各月刊誌『メディカルバイオ』(旧『バイオニクス』)で、「海外ヘッドラインdeライフサイエンス」という連載を担当しているのだが、次号で取り上げようかどうか迷ったのだが、結局、見送ったネタがある。

 ウクライナで、「幹細胞採取」を目的として赤ちゃんが誘拐され、殺されている、というショッキングなニュースだ。
 編集者と同意のうえで見送った理由は、このニュースが流れたのが昨年12月ということもあって少々古いことと、にもかからず続報がないので、信憑性に疑問があるということ。
 しかしそれでも、気になることではあるので、旧聞に属すること、信憑性が不明であることを前提のうえで、記事2本の全訳を掲載する。

幹細胞調査におけるウクライナの赤ちゃん
Ukraine babies in stem cell probe

マシュー・ヒル
BBC健康特派員

 健康な新生児が、繁栄中の幹細胞の国際取引に糧を与えるために、ウクライナで、殺されているかもしれない、とBBCが入手した証拠は指摘する。
 バラバラになった小さな身体の検死調査の、不穏なビデオ映像が、それらに何が起きたのかについて深刻な疑問を投げかける。
 ウクライナは、自称、世界の幹細胞の首都になっている。
 多くの疾病と戦うのを手助けできるという、証明されていない主張において、中絶された胎児の幹細胞の取引が存在する。
 しかしいま、幹細胞は、生きている赤ちゃんからも収穫されている、という主張が存在する。

沈黙の壁

 BBCは、健康な赤ちゃんを出産し、産科スタッフによって取り上げられる結果となったという、Kharkiv市の母親たちと話した。
 2003年、当局は、第6産科病院によって、約30体の胎児や満期産の赤ちゃんが墓から掘り起こされたことを認めた。
 ある活動家は、ビデオ証拠を集めるために、検死解剖〔の撮影?〕を認められた。彼女はその映像を、BBCとヨーロッパ評議評議会に送った。
 その報告において、同評議会は、子どもの売買という一般的文化が誕生にまで、そして彼らの運命をめぐる病院スタッフの沈黙という壁にまで手を伸ばした、と述べている。
 その画像は、脳を含む臓器が取り出されるところを示している----なかにはバラバラにされた身体もある。
 イギリスのある年長の法医学的病理学者は、自分は、バラバラになった身体を見てとても心配だ、と言う。それは、標準的な検死行為ではないからだ。
 それは、骨髄から幹細胞を得ていることの結果である可能性がある。
 第6病院は、この主張を否定している。

BBCニュースからの話題:
http://news.bbc.co.uk/go/pr/fr/-/2/hi/europe/6171083.stm

公表:2006年12月12日9時34分50秒グリニッチ標準時

幹細胞赤ちゃんの死の調査、「かなり真実に近い」と捜査官が主張
Stem cell baby deaths probe 'too close to the truth', claims investigator

ボージャン・パンセブスキ ウイーン サンデー・テレグラフ
最終更新:午前1時28分、グリニッチ標準時2006年12月17日

 その幹細胞や内部の細胞を得るために、新生児が殺されたという主張を調べている、ウクライナのある捜査官は、ウクライナの新生児病院すべてに拡大した調査を求めた後、自分はその事件から外された、と言う。
 首都キエフの主任捜査官事務所で働くイリーナ・ボゴモロヴァIrina Bogomolovaは、自分はこの事件から外された、というのは、生後すぐに赤ちゃんを奪われたと主張する女性たちによってなされた調査申し立ての一方で、自分は真実に近づきすぎたからだ、と主張する。
 彼女は言う。「私は政治的な理由でクビになりました。私は、ウクライナじゅうの病院の産科施設すべてへの調査を要求しました。そして私はその要求を行なった後、解任されました。
 ここには幹細胞の取引が存在します……私は、最高のレベルに至るまで、たくさんの賄賂の授受が存在すると疑っています。
 とりわけ農村部では、妊娠中の女性たちは、とても脆弱なターゲットになっています。というのは彼女らは明らかに、医師たちが彼女らに話すことを何でも信じてしまうからです。彼女らからその赤ちゃんを取り上げ、赤ちゃんは合併症のために死んだ、もしくは死んで生まれてきた、と彼女らに話すことは簡単です」
 ヨーロッパ評議会は、議論を呼んでいる医療的および美容的処置のための幹細胞や内臓を得るために、赤ちゃんや胎児が殺されている、という申し立てを調査することになっている。
 ストラスブールに本拠地を置く人権組織の幹部らは、2月にウクライナを訪れ、国際取引における同国の研究所や産科病院が果たしている役割を調査した。
 評議会は、2004年に調査を始めた。複数の母親たちが、自分たちの新生児を、その臓器や組織を取るために奪われたと病院を非難したときのことである。たとえばパーキンソン病やがんなどの疾病の治療のためだけでなく、新しく沸き立つ、再生治療産業のために、である。そのような治療は、ウクライナでは1万2000ユーロもかかるが、西洋諸国ではもっとかかる。
 この調査は、確たる証拠がないために取りやめられた。しかし、報道での新しい申し立ての後、それは再開されることになる。健康な赤ちゃんが殺されているかもしれないと主張する、この問題についてのBBCのレポートが、今夜、「レディオ4」で放映される。
 スイスの国会議員で、ヨーロッパ評議会の議員会議のメンバーであり、かつて消える赤ちゃんの報告を調査したルース-ゲイビー・ヴェルモット-マンゴールドRuth-Gaby Vermot-Mangoldは言う。「私は、信頼できる情報を得ています。消えた新生児5件についての、母親たちやそのほかの情報源からのものです……私は、母親たちは真実を話していると信じています。私はむしろ、赤ちゃんは西での養子縁組目的で盗まれたと考えています」。「多くの子どもたちとともにある全ウクライナ家族連盟」によれば、同じ運命を被ったと主張している母親たちは約300人いる。2003年には、そのリーダーのテチュナ・イザイェラ・ザハロヴァTetyana Isayeva Zaharovaは、1つのビデオを、ヨーロッパ評議会の捜査官に送った。そのビデオは、幹細胞や臓器が取り除かれうるように、部分的にバラバラにされた赤ちゃんの身体を示していると言われている。

# The stem cell swindle: the foetus factories: Radio 4, 5pm
#幹細胞詐欺:胎児工場The stem cell swindle: the foetus factories:「レディオ4」午後5時

 ところで僕には、気合いを入れて原書を買ったのに、きっちり読まないうちに翻訳が出てしまったという経験が何度もあるのだが、原書の存在をamazonで知って、買おうかどうか迷っていたが、翻訳が出たのでそちらを買った本がある。デボラ・L・スパーの『ベビー・ビジネス』(ランダムハウス講談社)だ。ラッキーッと思ったが、全訳ではなく、抄訳である。しかも文献リストがない! 原書を買うべきだろうか。
 それはともかくとして、『ベビー・ビジネス』でも、精子や卵子の売買や代理母ビジネスだけでなく、国際的な養子縁組についても書かれている。
 養子目的での子どもの誘拐は世界中で問題になっていて、記事や単行本もいくつか書かれているが、「幹細胞採取」目的の誘拐というのは、どの記事も伝聞の伝聞のようなかたちで書かれている。少なくとも現時点では、信憑性の高さは不明だ。
 そういえば数年前、南米で臓器目的での子どもの誘拐が相次いでいる、という「噂」が流れたのですが、結局、どの公的機関も報道機関もその事実を確認できなかった、ということがあったような記憶がある。この手の話題は、いわゆる都市伝説になりやすいのかもしれない。
 いずれにせよヨーロッパ評議会の報告を待つことにしよう。
 事実だとわかったら大スキャンダルだし、事実でないとのことだったら……都市伝説論のようなコラムが書けそうだ。また、この手の話題が、モルドバやウクライナなど旧ソ連、あるいは南米やアジア(中国!)など、いわゆる第3世界で多いことも気になる。07.5.26

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