幹細胞治療の国際ガイドライン草案

--- 2008年07月08日

 重い病いに苦しむ患者たちが、自国では受けられない「幹細胞治療stem cell therapy/treatment」を求めて、海外へ渡航する----。

『現代思想』7月号「特集 万能細胞」「JCcast」第17回でも少し触れたように、いま、そんな「医療ツーリズム」の一種としての「幹細胞ツーリズムstem cell tourism」が盛んになっている。
 そうした治療のなかには、技術的にも倫理的にも危ういものがあり、当然のことながら、幹細胞の専門家たちもだまって見ているわけではない。たとえば今年6月に開催された国際幹細胞研究学会の年次総会では、幹細胞治療のガイドラインの草案が公表された。
 以下、そのプレスリリースを示す。

2008年6月12日
連絡先:ミーガン・コマーフォードMeagan Comerford
+1 847-509-1944
mcomerford@isscr.org

国際委員会が、実験台からベッドサイドへの幹細胞治療の移行のための厳しいガイドラインを勧告
International committee recommends stringent guidelines for translating stem cell therapies from the lab bench to the bedside

 フィラデルフィア、ペンシルバニア州----インターネットは、麻痺やパーキンソン病、心臓麻痺、がんに対する、エキサイティングで新しい幹細胞治療を勧誘するプロバイダー・ウェブサイトや患者の証言で満ちあふれている。そして毎年、絶望的に病んだ患者たちが、そのような手に負えない疾患を治療するという大胆な主張をともなう実験的な幹細胞治療を求めて、何千マイルもの距離を旅している。
 そうした治療らしきことのうち、あるとしてもほんのわずかなものだけが、ピアレビュー〔論文審査のある〕雑誌に公表されている健全な前臨床データにもとづいている。今日のところ、白血病や免疫障害のような血液疾患のためのものを除き、幹細胞にもとづく治療で、検証済みのものはない。そのほかの幹細胞治療はすべて、きわめて実験的なものである。
 国際幹細胞研究学会the International Society for Stem Cell Researchの第6回年次総会では、この分野のリーダーたちからなるタスク・フォース〔特別調査委員会〕が、ガイドライン草案のセットを公表した。厳しくて最良の行為が、実験室から被験者へと、幹細胞研究の臨床への移行のために適用されることを確かなものとするために、である。このガイドラインは13の国々からの科学者や倫理学者、政策立案者、臨床医、産業の代表者、一般の人々らによる何ヶ月もの議論の最中である。(ガイドライン全文は、www.isscr.orgに投稿されるだろう。)
 ISSCRの会長で、ボストン子ども病院の幹細胞プログラムの副所長ジョージ・Q・ダーリーによれば、「これらのガイドラインはこの分野の未来の成功にとってきわめて重要です」。「未検証の治療の利用は患者らをリスクにさらすだけではなく、移行中の幹細胞研究すべての正当な実践をあやうくするのです」
 強く表現された言葉で、このガイドラインは、確立された臨床試験以外での幹細胞治療の利用を「非難する」。とりわけ患者が「実験的で未検証、未確立の診療行為を構成する、宣伝された医療サービス」として料金を請求されている場合には。このガイドラインは治療らしきことが提供されている国々の規制担当者らに、そのような行為を規制し、弱い立場にいる患者の搾取を防ぐよう促す。このガイドラインは科学者や臨床医に、透明性と、厳しくて独立した科学的および倫理的審査の厳守をともなう研究を行なうよう促す。
 このガイドラインは、ヒト幹細胞とそれらの直接的な派生物すべてにかかわる、臨床への移行プロセルの、主要な3分野に注意を向けている。細胞の加工と製造、前臨床研究、臨床研究、である。このガイドラインはまた、倫理的な監督、研究のピアレビュー、インフォームド・コンセントと被験者の保護、利益相反の回避、臨床試験のデザインと報告、患者の長期的なフォローアップに対して明確な勧告を示している。また、たとえば政策決定への参画や治療への公平なアクセス、とりわけ資源の乏しい国々の患者への入手可能な治療の提供のような、社会正義の問題にも言及している。
 このガイドラインは、道理にかなった科学的証拠が存在し、患者が利益を得て、害を被らないであろう「正当化された医療的必要性の例外的な状況」においては、臨床試験の外側で、特定の患者や少数の患者を治療することを認めている。インフォームド・コンセントや臨床的なフォローアップ、独立した専門家による審査、制度的なサポート、責任にかかわる臨床試験の規制がここにも適用される。
 2008年6月12日から9月15日までの期間にコメントを求めた後、同タスク・フォースは、このガイドラインの最終版をつくり、今年の終わりまでに公表することを期待している。その時点には、ISSCRは、幹細胞治療を検討している患者のための助言を公表し、プログラムや治療の評価において彼らのガイドを手助けするだろう。その助言は、ISSCRのウェブサイトwww.isscr.orgに投稿されるだろう。
 同ガイドラインのタスク・フォースはオーレ・リンドバルOlle Lindvall 博士が議長を務め、インソ・ヒュンInsoo Hyun博士が共同議長を務める。その作成には、4つのワーキング・グループが参画する。品質管理・製造小委員会(委員長:マヘンドラ・ラオMahendra Rao博士)、前臨床試験小委員会(委員長:グィウリオ・クッスGiulio Cossu博士)、臨床試験小委員会(委員長:イラ・J・フォックスIra J. Fox;博士)、社会正義小委員会(委員長:ローリー・S・ゾロスLaurie S. Zoloth博士)。

 国際幹細胞研究学会(ISSCR)は、独立の非営利会員制組織であり、幹細胞にかかわる情報や意見の交換や普及を促し、育成し、幹細胞にかかわる研究分野全般を奨励し、幹細胞研究とその応用の全分野における、職業人および一般の人々の教育を促進するために設立された。

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2008年6月16日に投稿
(粥川準二仮訳)


 
 現時点で、ガイドラインの草案はウェブサイトにアップされていないようだ。
 ところで……僕はなぜ、同学会の広報まがいのことをしているのだろう(苦笑)。
 誤訳などありましたら、メールでご連絡いただけたら幸いです。08.7.8

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