月刊文藝春秋2019年1月号掲載「平成の三冊」生原稿です。他のメディアでも書いていますがそれぞれ違うのを選んでいるので、本当に本当の三冊を選ぶとしたらと聞かれそうですが、これは割と本音に近いセレクション。 ****** 人文、社会科学、文学の領域でそれぞれ個人的に印象に残っている三冊を選んでみた。 まず人文書では東浩紀『存在論的、郵便的』新潮社を挙げたい。著者は昭和末のニューアカブーム以来、沈…
給食時間が怖かったことから始まる「食」論
月刊文藝春秋2019年1月号掲載「新書時評」 ********** 食べることを楽しめない。それはきっと小学校時代の給食のせいだ。好き嫌いは特になかったが、自分には量が多すぎた。担任教師は完食するまで席を立たせなかったので、どうすれば食パン4枚を時間内に食べ切るか、事前に配られる献立表を見ながら作戦を練りに練った。そんな記憶が半世紀経ってなお生々しいのは、それだけ辛かったのだろう。 しかし今回…
「一生困ったことがない人なんていないし、一生困っている人を助けるだけの人だっていない。それが〈平等〉ということ」
月刊文藝春秋2019年3月号掲載「新書時評」生原稿です。認知症フォビアから始まって社会の”最大公約数”としての障害いついて。 ******** 何か失敗すると「自分もついに認知症かも」と口走る中高年が多い。それは認知症への不安の裏返しだ。その不安は、ガンや成人病に対するものとは違って、症状だけに留まらず社会的存在としての自分が失われ、意図せずに長く辛い介護を周囲に求めてしまうことへの恐怖に由来す…