『ブランドに恋して−日本人のブランド消費の今−』加藤晶也

ブランドの意味世界へ突入します!

 自他共に認めるブランド好きである作家の中村うさぎは初めてシャネルで買い物を買ったときのことを以下のように記している。

    そして(シャネルの店内に)踏み込んだ途端、そこに黒い革のコートを見つけ
    たのである。ウエストシェイプでスラリと細く見える、シンプルかつ美しいシル
    エット。四つ並んだかわいい金色のボタンとファスナーの先には、燦然と輝
    く憧れのシャネルのマーク……!
      ああ、このマークよ! これなのよっ! いくら美しいシルエットでも洒落た
    デザインでも、このマークが付いてなきゃ、何のありがたみもありゃしない。こ
    の小さな小さな、しかし威力抜群のマークを手に入れるために、私は今まで生
    きてきたのだわっ!
                       (中略)
    「これ、くださいっ!」
    「ありがとうございます」
     店員は深々と頭を下げた……とその瞬間だ!!!
     突然私の胸に、思いもよらぬ陶酔感がどっとばかりに押し寄せたではないか!
    シャネルの店員が、私に頭を下げている! そーよ、買ったのだわ、私!つい
    にシャネルのコートを着れる女になったのよっ!
    ふと見ると、数人の女性客が、チラチラと私のほうを見ている。たまたま見ただ
    けかもしれないが、それを私は、嫉妬と羨望の眼差しと受け取ってしまった。
    さあ大変だ。中村の鼻はたちまちニョキニョキと伸びましたね。ピノキオのご
    とく。
     ホーッホッホッホ、この私をごらん!六十万円もするシャネルのコートを、ポン
    と衝動買いした女よ!あっぱれ日本一のブランド・バカ女! この私についてら
    っしゃい皆の者ーっ!

 まさにシャネルの意味世界の中に突入した瞬間である。中村うさぎはシャネルの高級感を買ったのである。「いくら美しいシルエットでも洒落たデザインでも、このマークが付いてなきゃ、何のありがたみもありゃしない。」というところからやはりデザインよりも、シャネルのロゴといった社会的なイメージを「60万円」という大金をはたいて買ったのだ。まさに「切符としてのブランド」がここにはある。


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