『在日の今』熊谷早苗
おわりに
名前ってなに?
バラと呼んでいる花を
別の名前にしてみても美しい香りはそのまま
『ロミオとジュリエット』シェイクスピア
この引用で始まる金城一紀の『GO』。著者は在日韓国人である。そもそもこの本を購入したのは、映画化され人気俳優、窪塚洋介が主役を演じたことで話題になり、その原作がどのようなものなのか興味があって読んでみたいと思ったのだ。しかし、ページをめくった瞬間にその手の動きが止まった。シェイクスピアの引用によるこの書き出しは、私にとってあまりにも衝撃的だったから。
自分と同じように、日本で生まれて日本語を話す。見た目も日本人なのに、韓国人。在日韓国人って……?
韓国。この隣国の住人である韓国人と日本人は一見、人種の区別がつかないくらい似ている。人類学的に日本人も韓国人もモンゴロイド(黄色人種)であり、虹彩は黒褐色。毛髪は黒褐色の直毛。見た目は同じ人間。じゃあ、何が違う? 違うのは、言語と国籍だ。
日本国内において、東北出身だから東北弁、関西出身だから関西弁が身についたように韓国人も韓国語を話しているだけのことではないか。『GO』の主人公は在日韓国人の男の子だ。見た目・言葉・名前は日本人となんら変わりはない。それでも、韓国籍を持つから彼は韓国人。そして、日本に住んでいるから「在日」韓国人と呼ぶのが日本の社会では正しいということなのだ。
『GO』は主人公・杉原と、恋人・桜井の恋愛も軸になっている。恋人は日本人。ある時、杉原は恋人に自分がどんな存在であるか告げる。彼は問い詰められた訳ではない。恋人を大切な存在と認識する彼自身の判断によるものだった。すると彼女は、「……お父さんは、韓国とか中国の人は血が汚いんだ、っていってた」と、返す。
また、彼女は下の名前を彼に告げずにいた。前述のやり取りのさらに後で、彼女も告白する。「わたしの下の名前はね、『椿』っていうの。『椿姫』の『椿』。桜と椿が一緒に入ってる名前なんて、めちゃくちゃ日本人みたいで教えるのがイヤだったの」
歴史への無知、教育による次世代への悲劇。
「在日」自体が問題を抱えているわけじゃない。問題を抱えているのは、在日と共に生きる「日本人」の方なのではないだろうか。
〜主要参考文献〜
『GO』
金城一紀 講談社
『日韓「異文化交流」ウォッチング』 石坂浩一・編 社会評論社
『となりのコリアン』 在日コリアン研究会・編 日本評論社
『日本は朝鮮になにをしたの』 映画「侵略」上映委員会・編