『介助犬と共に生きる社会へ』熊谷早苗

はじめに 
 犬は、私たちの生活に密着した生き物です。飼い犬に「お手」などの芸を教えたことはありませんか? 私も、かつて飼い犬のぽちに「お手」「おかわり」を教えました。食事の際に、「お手」「おかわり」をしてから、ご飯をあげます。ぽちは、どこにでもいる白い雌の雑種です。「お手」をしたからといって、偉い犬になったわけでもなく、他の犬でも何かよほどのことが無い限り、教えればできることです。でも、そこに、ぽちと私のコミュニケーションが成立します。ぽちにとってみれば、「早くご飯が食べたいよぅ!」と言わんばかりに尻尾をぶんぶん振りながら、ご機嫌で「お手」をしてくれます。それを見た私は「可愛いヤツだなぁ〜」と、さらにいとおしくなり、他でもないこのぽちが、愛情の分だけきちんと応えてくれる気がするのです。
 さて、本題は「介助犬」。どんな犬か知っていますか? 「盲導犬なら、知っているけれど……」という人が多いことでしょう。盲導犬は、視覚障害者の目の役割をします。2004年に、映画『クイ−ル』(監督・崔洋一)が公開されたこともあり、盲導犬の役割を知った人や、興味を持った人がさらに増えたことと思います。

 介助犬は、肢体不自由者の手足の役割をします。日常生活で、肢体不自由者が困難な動作の手伝いをしてくれます。例えば、物を運んだり、拾ったり。エレベーターのボタンを押したり、段差で車椅子を引っ張ったりと、介助犬の仕事は、飼い主・使用者となるユーザー(user)の体の状態によって異なります。
 家庭犬がこういう動作をしてくれたらどんなにいいか……なんて、考えている人も中にはいるかもしれませんね。しかし、介助犬がユーザーの身の回りのことをすべてしてくれるわけではないのです。介助犬は、手足の不自由なユーザーを助けるためにいます。ユーザーが自立した生活を送るにあたり、外出や仕事をする際の手助けをします。芸ではなく、人を支える仕事をする犬。ペットと介助犬の大きな違いです。
 身体障害者補助犬法が、2002年5月に成立し、翌年10月から全面施行されました。介助犬、盲導犬、聴導犬(聴覚障害者の耳の役割を担うよう訓練された犬)を補助犬とし、その育成・使用・受け入れに関する法律です。今までに、レストランや各交通機関などで補助犬の同伴について受け入れを拒否された経験を持つ障害者は少なくありません。ですから、この法律の施行はまさに悲願でした。
 しかし、法律施行後の今、劇的に何かが変わったわけではありません。施行後にも、受け入れ拒否されたという報告があります。最近になって介助犬の存在が注目され始めたものの、認知度はまだまだ低く、実社会で接する私たちの中には法律はおろか、介助犬の仕事を知らない人がたくさんいるのです。
 障害を持つ人の身体の一部となって生きる犬を受け入れ、共に暮らせる社会。そこは温かいと思いませんか?

介助犬ってどんな犬?
 2005年2月現在、介助犬使用者は全国で23名と言われています。介助犬の犬種は、ラブラドール・レトリーバーが一般的で、盲導犬の多くもこの犬種です。介助犬の適性があれば種類は問いません。雑種でもよいのです。ラブラドールの特徴は、性格が優しくて穏やか。頭も良く、体が大きいため力持ちです。段差がある所で、ユーザーの車椅子を引っ張ったりするには、相当の力が必要となります。また、比較的、毛が抜けにくいなどの要素も介助犬に適した犬であるといえます。とはいえ、介助犬になるからには、素質・適性が重要な鍵となります。補助犬として括られているからといって、盲導犬、介助犬、聴導犬が同じ犬で良いというわけではありません。人それぞれ、性格が違うように、犬にも異なる性格があるのです。それによって、介助犬に向いているが盲導犬には向かないというように、仕事と性格の適性を見合わせます。

  「どんな犬が介助犬に向いているの?」
 まず、攻撃性や警戒心が無く、人懐っこいことです。ユーザーの手となり足となり、色んな場所でお手伝いするわけですから、指示をもらってそれに反応し、仕事を楽しめることが重要になります。しかし、過度に反応し、興奮してしまう性格では困ります。いつ指示をもらっても反応できるように、そして、どのような状況にも順応する落ち着きや集中力を備えていることも必要です。
 刺激に対し、あまり過度に反応しすぎるのは困ったものですが、少しだけやんちゃな方が介助犬には向いているのかもしれません。
介助犬使用者のパイオニアである、木村佳友さんのパートナー「シンシア」は、幼少期には木村さんのご飯を横取りしてしまうくらいお転婆で、木村さんは手を焼いていたそうです。また、身体障害者補助犬法による日本初の認定介助犬使用者となった山口亜紀彦さんのパートナー「オリーブ」は、もともと盲導犬になる予定でしたが、その有り余る元気さは、盲導犬には向かないと判断されました。しかし、そこに居合わせた介助犬協会の方に、介助犬の適性がありそうだと素質を認められたそうです。
 介助犬がよくする仕事で「Take(テイク)=くわえて・取って」があります。例えば、「Take 電話」なら「電話をくわえて」です。この仕事ができるようになるために、その犬の最も好きなものを使ってトレーニングを積みます。
ユーザーが取って欲しいものは、いつも同じ場所にあるとは限りません。どのような所にあるかわからないので、目的とする物を箱の中に入れたり、高い所に置いてみたり。目的の物を、訓練する犬が一番好きなものにすることで、犬は楽しみながら頑張って取ろうとします。犬にとっては楽しい遊びの中で、身につけるべき動作を織り交ぜるという工夫をこらし、訓練していきます。

  「指示が英語なのはなぜ?」
 日本語には、方言や男言葉・女言葉があります。それにより、犬が混乱し、指示を理解できないということが起こります。しかし、英語はそのような複雑な用法が無いので、介助犬を育てたトレーナーと、ユーザーの間で使用する言葉が変わる心配はありません。
<指示語の一部>
Come by heel (カムバイヒール=左横について) 
Come by side (カムバイサイド=右横について) 
Come by stand (カムバイスタンド=立って)
Come(カム=おいで) Sit(シット=座る) Halt(ホールト=止まる) Go ahead(ゴーアヘッド=先に行く) Up(アップ=前足上げる)
Kennel up(ケネルアップ=身体ごと上がる) 
Leave it(リーベット=離れなさい、それに興味を持たないで) など。

 ここに挙げたのは、ほんの一部に過ぎません。これらの指示語と、日本語の単語・物の名前などを組み合わせてユーザーが望む指示を作ります。
 それでは、教えているときに最も重要なことは何でしょう?
それは、犬とよく目を合わせること。いわゆる「アイコンタクト」です。私たちは、犬をよしよしと撫でてあげることができます。でも、肢体不自由者で手を動かせない人は、それができません。だから、アイコンタクトでコミュニケーションを図ります。ユーザー側の感情を伝えることも大切ですが、犬の目を見て、ユーザーが理解してあげようとすることも大切なのです。そうすることで、お互いにどんなことを望んでいるのか、どのようにするべきか、だんだんわかってきます。人間だってそうでしょう?! 

 ちなみに。本を読んでいると、とても興味深い質問を見つけました。「猿の方が、手先が器用なんだから、介助動物に向いているんじゃないの?」というもの。確かに、猿の方が器用だし、そもそも人間に一番近い存在です。しかし、それゆえにダメなのです。人間がかかる病気と同じ病気にかかるので、向かないということでした。さらに、犬の方が猿よりも従順だということです。
 
取材が困難?!
 介助犬について調べていると、ある団体のHPを見つけました。「特定非営利活動法人・日本介助犬アカデミー」です。まず、自己紹介とどういった経緯で介助犬について調べているのかということを踏まえ、取材協力をお願いするメールを協会宛に出すことにしました。そのとき、ちょうどHPで2005年1月30日に身体障害者補助犬学術シンポジウムが開催されるとのお知らせがあり、一般参加も可能だったため、すぐさま応募することに。
 後日、アカデミー事務局からメールが届きました。それを読んで、私自身、うっかりミスをしていたことに気がつきました。うっかりミスというか、配慮が足りない自分にがっかりしてしまったのですが……。
 現在、全国で介助犬使用者は23名。まだまだ普及途中の介助犬とその使用者なので、取材依頼が殺到しているそうです。使用者は全国各地にいるわけですから、東京在住の私がお会いできる人は、都内もしくは都内近郊の方になります。仕事をしている方だっています。そうすると、おのずと取材対象人数が減ってくるわけです。それなら、電話、FAX、電子メールでも取材はできるだろうと思いますが、今回の取材は介助犬使用者。手や足が不自由な人なのです。ですから、わざわざ外出してもらって取材をさせていただくのもご迷惑になることですし、職場にお邪魔して時間を割いてもらうのも何だか気が引けます。
 どうしたものか、と考えていたところ、事務局長の橋爪智子さんからメールを頂きました。学術シンポジウムが始まる前に、補助犬法問題・使用者連絡協議会発足記者会見が行われるので、出席しませんかという内容のもの。介助犬使用者の取材が難航するかと思っていた矢先のことですから、メールを何度も読み直して確認したほど嬉しいことでした。
 
身体障害者補助犬学術シンポジウムへ 〜その前に〜
 1月30日(日)晴れ。すっきりとした青空の下、冷たい風が気持ちを引き締める。
余裕を持って会場に到着したため、11時30分から始まる記者会見まで、少し時間がありました。フロアをうろうろしていると、写真パネルを展示しているところでした。モノクロのパネルを少し近づいて見ると、木村さんとシンシアでした。木村さんの車椅子にそっと寄り添うシンシア。私は、シンシアの丸くて黒い目が大好きです。残念ながら、実際にお会いしたことはないのですが、介助犬関連の書籍を見ると、シンシアと木村さんの写真が使われていることが多々あります。「目は口ほどにものを言う」。シンシアの目は、写真を通してでも、優しく何かを話しかけているように見えます。
介助犬の存在を知ったのは、『介助犬シンシア』(木村佳友 新潮文庫)を書店で見つけたことに始まります。その時まで、「介助犬」という言葉を知らずにいました。「介助犬って何だろう?」と思ってその本を手にすると、シンシアが電話の受話器をくわえているショットと、電気のスイッチを押しているショットが。賢い犬なんだなぁ〜と感心しつつ、パラパラとページをめくりました。最初の数ページはシンシアのお仕事ぶりがカラーで掲載されています。その数ページを見て、シンシアの虜になってしまいました!
これが、私と介助犬の出会いでした。
 そうこうしていると、記者会見が始まる時間に。受付を済ませ、会場内へ。

補助犬法問題・使用者連絡協議会発足記者会見、開始!
 会場に入ると、記者会見を行う発言者は既に前の席に座っていました。補助犬を足元に連れた5名です。メディア関係者は8名、協議会関係者5名、手話通訳士1名。
 発足記者会見 出席者一覧
竹松栄治・盲導犬エディ(全日本盲導犬使用者の会)
清水和行・盲導犬クーリー(全日本盲導犬使用者の会)
渡辺 宏・盲導犬うらら(全日本盲導犬使用者の会)
松本江理・聴導犬美音(みお)(聴導犬使用者「タッチの会」)
山口亜紀彦・介助犬オリーブ(日本介助犬使用者の会)

 今回、行われた記者会見の正式名称は「身体障害者補助犬法改正対策使用者団体連絡協議会」(補改使連)発足記者会見です。世話人の清水さんも、会見の席で「長くて言いづらい」などと嘆いていました! 漢字ばかりで、私たちには、「何のことやら?」という印象を受けます。漢字の一区切りずつ見ていくとわかるように、内容は補助犬法の改正に向けて、使用者団体で連絡協議会を立ち上げましたというものです。
 もう少し詳しく説明しましょう。
 補助犬使用者のアクセスを国として初めて保障した「身体障害者補助犬法」が2002年5月に成立し、同年10月1日に一部施行されました。この法律は、補助犬使用者にとってずっと望まれてきた法律でした。それでも、補助犬使用者の法律施行後の生活が劇的に変わるものではなかったのです。補助犬法の附則第六条には、法施行後3年後の見直しが謳われています。それが、2002年から3年たった今年、2005年なのです。
 「法律」で定まっていないことにより、補助犬使用者が「アクセス」を拒否されることがこれまでにたくさんありました。しかし、いくら法律が施行されても、生活の場である社会を構成している国民の理解がなければ、意味をなさないのです。
 施行されたものの、補助犬使用者にとって十分でなかった点などを踏まえて、より実効性の高いものへ法改正するために連絡協議会を立ち上げることになったのです。
 
 使用者側は、補助犬法に欠陥があるといいます。海外では、同伴する権利が保障されていますが、日本はアクセスを保障するというもの。ですから、受け入れ側が拒否することも可能になるのです。たとえば、アメリカには「障害を持つアメリカ人法(ADA)1990年」という障害者福祉法があり、障害者が公共施設や、公共輸送などへサービスアニマル(障害を持つ人の助けになる仕事をするよう、個々に合わせて訓練された動物)の同伴が認められています。オーストラリアの「障害者差別禁止法(DDA)1992年」や、イギリスの「障害者差別禁止法(DDA)1995年」では、サービスアニマルの同伴のよる差別を禁止しています。
 今回、「補助犬法10条、11条」を改正してほしいという声があがっています。どのような内容なのか、見ていきましょう。

第四章 施設等における身体障害者補助犬の同伴等
(事業所又は事務所における身体障害者補助犬の使用)
第十条 事業主(国等を除く。)は、その事業所又は事務者に勤務する身体障害者が当該事業所又は事務所において身体障害者補助犬を使用することを拒まないように努めなければならない。
(住宅における身体障害者補助犬の使用)
第十一条 住宅を管理する者(国などを除く。)は、その監理する住宅に居住する身体障害者が当該住宅において身体障害者補助犬を使用することを拒まないように努めなければならない。

 このように、民間での受け入れが努力目標になっているのです。法律施行から3年が経ちますが、「就職するにあたり面接の段階で難色を示される」「民間の住宅に入居を断られた」という声があちこちから聞こえています。これでは、憲法22条の「居住・移転・職業選択の自由」に反します。補助犬使用者だって、皆さんと同じ権利を持っているのです。国の住宅、交通機関、職場で受け入れが認められるように、民間の機関でも同等に扱われることを望んでいるのです。
 また、日本には今のところ苦情処理の規定がないため、仲裁機関の設置が求められています。そして、海外のように罰則をつくる事も、補助犬の同伴が権利として認められるには必要です。
 会見の最後に、こんな一言を聞きました。「補助犬法という法律ができて、期待していました。しかし、まだ不自由なことが時折、起こります。私たちも、どこへでも自由に行きたいのです。皆さんにも理解してもらって、法律ができて良かったと思えるようにしたいです」(聴導犬使用者・松本江理さん)
会見発表者5人の足元に待機していた補助犬たちは、会見の約30分間、身動きもせず、じっと使用者を見守っていました。

腹が減ってはシンポはできぬ
 記者会見が終わると、昼食をはさんでシンポジウムが始まります。私は、先程、記者会見を済ませた5人と関係者数人の昼食を買いに行くお手伝いを頼まれました。記者会見に出席させていただいたお礼に、これくらいのことはお安い御用です!
 受付をしていた健康科学大学・助手の石上智美さんと買出しに行きました。初対面なので、自己紹介をしながら話をすると、盲導犬の研究をなさっているとの事。後で気づくのですが、私は石上さんの論文を読み、参考にさせていただいていたのです。こんな所で、お会いできるとは……。世の中って意外と狭いものだなぁ〜と、しみじみ。
 お茶や弁当を買い、お腹を空かせた皆さんのもとへ。何種類か違うものを買ったので、好きなものを選んでもらい、私もそこに同席させていただいて昼食をとりました。ちなみに、私はカレーです。会見が終わって、ほっとしたのか、先程までの印象と打って変わって、皆さん、楽しそうにお話しながらの賑やかなランチでした。
 私の隣には、聴導犬使用者の松本江理さんが座っており、足元には聴導犬の美音(みお)ちゃんがいました。松本さんはみんなとおしゃべりしながら、サンドイッチを食べています。私はその横でカレーをむしゃむしゃ……。ちらりと、足元の美音ちゃんに目をやると、
「?!」
鼻を両手で押さえた格好をしていました。偶然、そんな体勢になったのかなぁ〜?などと考えつつ、聴導犬として働く美音ちゃんの仕事っぷりを見せてもらいました。しかし、仕事中の美音ちゃんの隣で香り漂うカレーをもぐもぐと食べてしまったのは、かわいそうだったかな、とちょっと反省。

補助犬シンポジウム
 このシンポジウムは、日本介助犬アカデミー事務局内にある身体障害者補助犬学術シンポジウム実行委員会の主催によるもので、補助犬に関係する人たちが結集したものです。       
母体となる介助犬アカデミーは、介助犬の理解や普及を目的とした活動を行っている非営利団体で、介助犬の調査・研究をしている学術的団体でもあります。研究団体なので、育成は行われていません。奈良県立医科大学名誉教授・燒哲也氏が会長を務め、1997年に設立しました。会長が医学界の方ということもあって、組織構成がしっかりなされている上、関連する役職の専門家が多数集結しているため、多角的でより綿密な研究が行われています。介助犬・シンシアのユーザー、木村佳友さんも理事を務めています。
 また、身体障害者補助犬学術シンポジウム実行委員会の代表も、燒哲也名誉教授が代表を務めています。
 
 1.障害者自立支援給付法(仮称) 
 補助犬を必要としている人たちは、身体に何らかの障害があります。なぜ、補助犬を使用するのか。それは一言でいえば、自立した生活を送るためです。日常生活の中で、常に誰かに頼って生活していると、万が一、その誰かですらいない場合に緊急事態が生じたとしたら、命に関わることだってあるかもしれません。
 補助犬は、常に隣にいることだけでも、使用者に大きな安心感を与える役割があります。また、使用者は気兼ねなく頼むことができると言います。一人で外出する際は、常に誰かの手を借りなければ段差を乗り越えることも、買い物をすることも困難です。その前に、お手伝いしてもらうためには、見ず知らずの人に声を掛けて、頼まねばなりません。人によりますが、大半の補助犬使用者はそのことが大きなストレスになり、外出を楽しめなかったり、外出自体を控えてしまったりする人も少なくないそうです。
 厚生労働省障害保健福祉部では、障害者の地域生活と就労を支援するための総合的な制度改革・改革のグランドデザイン案を打ちたて、障害者を「保護」する立場から、「支援」する立場への転換を図ろうとしています。
 そのために、次のような障害保健福祉策の抜本的見直しがされています。

@障害保健福祉の総合化(年齢や障害種別に関わりなく、身近な所で必要なサービスを受けながら暮らせる地域づくりを進める)
A自立支援型システムへの転換(障害者が、就労を含めてその人らしく自立して地域で暮らし、地域社会にも貢献できる仕組みづくりを進める)
B制度の持続可能性の確保(障害者を支える制度が、国民の信頼を得て安定的に運営できる、より公平で効率的な制度にする)
 このような観点から、現行の制度的な課題の解決を図り、新たな体制を整えようとしています。具体的に、どのようなことが問題となっているのでしょう。

1.障害者の法律は、障害の種別によって大きく4つの法律に分類されています。身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、児童福祉法、精神保健福祉法です。それぞれの障害に該当する人が、その法律に沿ったサービスを受けています。しかし、その内容は、ほとんど同じです。だとしたら、障害の種別に関わりなく身近な所でサービスを受けた方がよいので、福祉サービスを一元化し、公平なサービスを提供しようということです。
2.現在、都道府県、市町村の窓口がバラバラになっています。目的、責務、用語の定義を規定し、国から都道府県、都道府県から市町村へ適切な支援を行うなどの相互的体制を組もうとしています。
3.国の費用負担は、「補助金」という形で出されています。補助金は予算の範囲以内でなければいけません。超過分は出なくなってしまいます。これを「負担金」とすることで、予算がなくても義務となるので、費用が捻出されることになります。
 
 このように、国は、障害者がより自立した生活を送れるように、地域の整備を重点とし、就労や公平なサービスの支援をしようとしています。そのために、費用を皆で負担し支えあう仕組みの強化、利用したサービスの量や収入に応じた公平な負担の実施、国の財政責任の明確化を見直しています。
 近年、障害者の地域社会への受け入れが謳われているように思います。身体に何らかの支障がある人を「障害者」として括ろうとしますが、一言に障害といっても、それぞれに違いがあるのです。障害種も多様化し、質的な複雑化にあります。専門職員が障害者の比率に対し少ない現状で、公平なサービスが、障害種を軽視した「公平」の名をふりまく単なるサービスになってしまわないことを願います。また、自己負担が増えることや、収入に応じたサービスが事実上公平になっても、果たしてそれが公平といえるのだろうか?などの懸念を持ちます。この法案については、現在、政府部内でも調整中であり、今後大きな変更がありうるということなので、議論する余地がありそうです。
 2月10日(金)、午前中の政府閣議で、「改革のグランドデザイン」にもとづく障害者自立支援法案の国会提出が了承されました。介護保険制度のように、障害者の状態やニーズを中立的な審査会が審査し、受給するサービス内容を決定する事、サービスを受けた場合、新たに原則1割の自己負担を導入する事、施設を出て地域で自立ができるよう、就労や住宅サービスなどの支援を地方自治体が行うこと、などを定めています。
これを受けて同日、第162回通常国会に法案が提出されました。国会審議は、実際には4月以降になる見込みで、審議の山場は5月の連休明け頃になることが予想されます。

 2.補助犬法施行後の調査と今後の課題
 補助犬法は、社会の受け入れを求めることを基礎としたものです。その一方で、使用者側にも義務があります。使用者側が常にきちんと整備していなければならないとも言えます。次のようなことが義務付けの一例です。
・補助犬の行動の管理と衛生の確保
・健康管理記録と補助犬認定証の所持
・補助犬の表示  など
  
<実態>
 以下は、日本盲導犬協会が2004年9月に全国の盲導犬使用者を対象に行った調査結果です。
・補助犬法完全施行後、盲導犬の受け入れに関する社会の理解は進んだと感じる 66%
・実際に拒否を経験した人 52%
拒否の理由……ペットの入店不可 37%
店の方針 37%
受け入れ態勢がない 16%
保健所の指導 10%
補助犬が汚れている、臭い 4%
盲導犬であることを証明する書類を所持していなかった 2%
・補助犬健康管理手帳や盲導犬使用証明書を必ず持ち歩いている 78%
・補助犬法に使用者の義務が明記されていることをよく知っている 52%
・使用者が盲導犬の体を清潔に保つと共に、予防接種及び検診を受けさせることにより、公衆衛生上の危害を生じさせないように努めなければならないという義務を知っている 91%
 
このように、使用者自身が必ずしも規則の細部まで把握していないという事実が浮かび上がったのです。今の段階では、補助犬法が完全施行されているとはいえ、周知の法律とまでは言えない状況にあります。お店や飲食店などで受け入れを拒否されても、拒否側に対して罰則がない状態です。しかし、今、使用者が常に受け入れを認めてもらえる体勢でいなければ、他の使用者にも迷惑がかかることになってしまいます。
 法の見直しと共に、使用者が果たすべきことの見直しもしなければならないようです。

<一般市民の意識調査>
 日本盲導犬協会が2003年8〜9月に、東京都、神奈川県、仙台市で行った調査によると、補助犬法が施行されたことを知っている 46%
補助犬を受け入れることに賛成 83%
という結果が出ました。私の周りにいる同世代の数人にも、同じ質問をしてみましたが、知っている人はいませんでした。しかし、補助犬の受け入れに対しては、知らないと答えた全員が賛成すると答えていました。
 価値観の多様化、個性重視の風潮の中、最近では、障害も個性の一つであるなどといわれるような時代になりました。そういった良い流れに乗って、補助犬も温かく見守られて社会の中に溶け込んでいけたら……。そう願うのは、贅沢なことなのでしょうか?

ダイエーの取り組み
 コンビニエンスストアーのローソンを含む、全国約8300店の巨大流通グループであるダイエーは、補助犬法が施行される10年ほど前から盲導犬、聴導犬、介助犬の順に受け入れを開始していました。盲導犬が、もっとも早く、93年から受け入れが開始されていました。さらに、盲導犬育成のための募金活動も実施しており、全国盲導犬施設連合会に寄付され、訓練や育成の費用に充てられています。
 そして、99年に介助犬の受け入れが始まります。受け入れが検討され始めた頃、ダイエーの担当者が木村さんの家を訪れたこともあるそうです。ダイエーは介助犬の研究者と相談し、従業員対応マニュアルを作成しました。99年4月末、宝塚中山店において、木村さんにシンシアを同伴した上で買い物をしてもらいました。一般客にも公開されていたので、担当者はその反応も見ていたようです。
そして7月、全国のダイエーグループは、一斉に介助犬同伴を認めました。同年、「盲導犬募金1億円達成ふれあい教室」と題される催しが開かれました。実際にデモンストレーションを行い、目で見てもらうことで、文書で説明することの何倍もの効果があります。まさに『百聞は一見に如かず』です。このふれあい教室は毎年、全国各地で開催され、盲導犬ばかりではなく、すべての補助犬行っています。介助犬の受け入れと、ふれあい教室の開始年度は一緒です。これは、木村さんとシンシアのデモンストレーションの有効性が見出されたことが大きいのではないでしょうか。
また、補助犬法全面施行に伴い、店舗近隣に居住する補助犬使用者を招 待するという、大変、画期的な取り組み「WELCOMEダイエー」が実施されました。参加者には、ダイエーの商品券を進呈した上で買い物をしていただいたという所に、ダイエーの太っ腹ぶりを感じずにはいられません! 補助犬使用者への配慮と、他の買い物客へのデモンストレーションにもなり、この催しにより補助犬の存在を知った人が多くいたことでしょう。ダイエーグループの創業以来のモットー「お客さまの声を聞く」という強固な礎は、お客さまのどんな小さな声にも耳を傾ける姿勢の支えであるように見えます。

3.指定法人という認定組織
 日本での介助犬の歴史は浅いです。どれくらい浅いのかというと、国内で訓練された介助犬が誕生したのが1995年といわれています。国内で訓練された介助犬が誕生する以前に、1991年にある女性がアメリカから連れてきたのが初めての介助犬です。介助犬が日本に来て14年、日本で生まれ育ち国内で訓練を受けた介助犬の誕生からまだ10年です。
 盲導犬は、1957年に国産第一号が誕生しています。1984年に埼玉県の聴覚障害者2名に聴導犬訓練所が1号犬・2号犬を無償で貸与。これが、日本で最初に実用化された聴導犬です。こうやってみると、盲導犬・聴導犬使用者は、補助犬法が施行されるまでの長い年月の間に、かなり不自由な道を歩んできたことになります。
 
  <指定法人の役割>
 指定法人とは、補助犬として訓練された犬が、その使用者となるユーザーと共に公共施設など外部で適切な行動ができるかを認定する所です。また、能力が不足していると認める場合には、認定の取消をする機関でもあります。介助犬の指定法人は、厚生労働省の調べによると2004年10月5日までに5団体が確認されています。
 指定法人の横浜市総合リハビリテーションセンターは、2003年に厚生労働省より介助犬・聴導犬の認定法人として指定を受けました。2005年1月30日までに11組の介助犬を認定しています。身体障害者更生施設長の小田芳幸氏は、補助犬は障害者の自立を補完する手段の一つであり、補助犬法は障害者の自立と社会参加で、そのために必要な認定であると述べています。
 現状では、認定の基準が相対的で明確にされていません。各々の状態に応じた認定であると専門家は考えています。介助犬を必要とする人の障害の重度が、それぞれ異なるため、一律に同じ基準に達することは困難なのです。補助犬法が成立し、介助犬が使用者や各メディアを通じて、さらに知れ渡れば、介助犬の育成・需要がさらに高まることでしょう。そのためには、指定法人の認定の客観性をある程度、明確にする必要がありそうです。また、訓練事業者をはじめとし、介助犬の枠組みを越えて、補助犬として各関連機関との連携が重要になることでしょう。

4.育成補助事業
 介助犬一頭を育成するのに、250万〜300万円かかるといわれています。盲導犬育成でも同じくらいの金額です。その資金源は、一体何でしょうか?それは、それぞれの育成団体の会費、寄付、行政からの補助金、制作したグッズ販売の売り上げなどです。2003年からは、身体障害者補助犬育成補助事業が障害者(・自立支援)社会参加総合推進の選択事業として加わり、一頭あたり150万円を例示額として350頭分(盲導犬300、聴導犬30、介助犬20)の予算が計上されました。
 2003年4月から社会福祉法の改正に伴い、介助犬訓練事業は第二種社会福祉事業となりました。訓練事業者は都道府県に届け出をしなければなりません。貸与または給付事業についての公的助成制度も開始されるので、届け出をしなければ公的助成は受けることができなくなります。貸与等の事業内容及び方法については、各都道府県に任されるので、特定の指定訓練事業者だけに公費助成をする自治体も出てくるかもしれないのです。
 
  5.介助犬の健康管理
 介助犬としてユーザーの下で働くには、まず健康が第一です。介助のお仕事って肉体労働ですからね!
 補助犬になるために身体機能を大きく変えなければならないことがあります。それは、不妊手術を受けることです。雌に限らず、雄も処置を受けなければなりません。補助犬法で避妊・去勢が義務付けられました。発情期の行動を抑制・コントロールすることは訓練できず、補助犬候補の段階で、訓練に参加する以前に手術を済ませなければならないのです。また、雌の場合、初潮を迎える前に手術した方が、乳がんなどの病気を防げるそうです。犬にも、成人病があるといいます。
 木村さんのパートナー・シンシアは、ペットとして飼っていた最後7ヶ月のときに手術をしたそうです。しかし、木村さんは、ふと「恋も知らず、可哀そうなことをした」と思うと前述の著作の中で述べています。
 もう一つ、身体機能で重要なことがあります。介助犬を含む補助犬たちは、排泄を訓練によってコントロールできるようにするのです。ユーザーの指示に従って、排泄できるようにします。このシンポジウムのように、長時間、座席に拘束されることもあります。一緒に職場へ出勤する介助犬だっています。常にユーザーのそばにいなければならないので、この訓練はとても大切です。しかし、大半のユーザーがパートナーの排泄時間や、その状況を汲み取って指示を与えているようです。
 
シンポジウムの最後、補助犬シンポジウム実行委員会代表・燒哲也名誉教授が締めくくりました。燒名誉教授は、厚生科学研究障害保健福祉総合事業・介助犬基礎的調査研究の班長を務め、3年間の継続研究を行いました。それまでに、歴史の浅い介助犬の研究事例がなかったため、茨の道を切り開いてきたといえます。
 介助犬については、諸外国と比較して後進国の日本ですが、介助犬の誕生から急速な発展途上にあります。後進国だからこそ、前例の失敗や数々の事例を集めて、生かすことができます。日本は、その利点を大いに活用して介助犬先進国にも貢献できるように、介助犬アカデミーをはじめとし調査・研究を行っていけたらと思います。

シンポジウム終了後…… 
 今回のシンポジウムは休憩を挟みながら、約4時間30分に及ぶ長丁場でした。
<参加者概要>申込人数121名(実行委員12名、関係者45名、予定総数178名)
うち、補助犬使用者の参加が16名(盲導犬10組、介助犬4組、聴導犬2組)でした。補助犬たちも同じ会場内で、使用者の足元に待機していました。場内の約1割が補助犬というシンポジウムで、4時間30分の間、一度も犬の鳴き声を聞くこともなく、場内に犬のニオイがすることもありませんでした。付け加えて言うのなら、午前中の記者会見から昼食の間だってそうです。唯一、聞いた音は身震いをして毛並みを整えるときの音だけです。それを聞く以外は、犬の存在すら感じませんでした。ユーザーとパートナーが、まさに、一心同体になっているように思いました。

取材ができる?!
 シンポジウムが終わると、事務局長の橋爪智子さんにお礼を言いに、と思ったのですが、出入り口にいた橋爪さんは、会場から次々出てくる出席者との挨拶で大忙しでした。
 一段落ついたものの、これから懇親会があるとの事で、本当に息つく暇もなくという感じでした。その合間に、橋爪さんが介助犬使用者で話が聞けそうな人を急遽、教えてくださりました。先ほどの記者会見で、会見席にいたオリーブのパートナー・山口亜紀彦さんです。しかし、山口さんもこれから始まる懇親会に出席するところで、大急ぎで自己紹介をし、お話を聞くことに。聞きたいことは、前もって色々と考えていましたが、全部聞く余裕などありません。それに、シンポジウムや記者会見である程度、わかったこともあります。でも、ここで聞かなければ、これから先、取材することは難しくなってしまう!頭の中で「あれはだめ、これはさっきあの人が言っていたし……」などと、質問を高速で考えた私──。
「山口さんは、補助犬法が施行されて、変化はありましたか?」
「う〜ん、そうですねぇ。僕は毎年旅行に行くんですけど、この前も受け入れを拒否されてしまいました。確かに、受け入れをする所は増えていますけど、まだ、そういう所もあるのが現状ですね」
と、懇親会が行われる会場に向かい、歩きながら話を聞きました。会場は、シンポジウムが開かれたホールと同じフロアで、すぐ近くです。山口さんの隣には、もちろんオリーブがいます。「私の大好きな山口さんに、何を聞いているのかしら?」と、ちらりと私の顔を見た丸い目の愛らしさに、思わず抱きしめたくなってしまいます。オリーブには、人の心を丸くさせ、安心感を与える力があります。これが、介助犬の素質であり、介助犬として働く彼女が培ったものなのだと感じました。
「そうですか。それでは、介助犬がいてよかったなぁと感じるのは、どんなときですか?」
「いつもそばにいてくれることで安心します。家にいるときも、仕事をしているときでも。そういう、精神的なものが大きいですね。でも、それが一番必要で、大切なことだと思います」
 そう語りながら、山口さんはオリーブを見つめていました。その目は、なんだか、オリーブに似ているようで、見ている私は愛情のお裾分けをしてもらった気分で、とても温かい気持ちがしました。話しながら、ついには会場に入り込んでお話を聞かせてもらいました。取材は、ものの10分。あっという間です。それでも、言葉以上に得るものがありました。山口さん、そしてオリーブ、お疲れのところ、ありがとうございました。取材ができただけでなく、私はお土産までいただいた気がします。
 
人生の途中で
山口亜紀彦さんは、千葉県千葉市の職員として働いています。今から10年前の1995年にオートバイの事故により脊髄を損傷し、車椅子生活になったそうです。山口さんは、下半身が不自由でありますが、上半身は職場で一般事務を難なくこなせ、不自由はありません。オートバイの事故──。そういえば、木村さんも、オートバイの事故で車椅子生活になったとのこと。この二人に共通する事例に、ハッとするものがありました。いずれも、突然、身体の自由を奪われたということです。
 それまで自由に動かせたはずの足が、動かなくなる。少なくとも、自分には無縁だと思っていた「障害」という二文字。今、自分の意思で動かすことのできる手足が、明日には動かせなくなるかもしれないなどと考えて過ごす人は、極度の心配性か、何か病気を患っている人くらいのものでしょう。実のところ、私も考えていませんでした。お二人だって、そのようなことを考えていたわけでは決してないのです。
しかし、誰にでも、起こりうることなのです。
 車椅子生活になっても、お二人のように充実した暮らしを送っている人はたくさんいます。現在、こうして介助犬と共に生活や仕事ができるようになったのは、第一に、事故を乗り越えてきたことにあります。突然、身体の自由が奪われる。最初から素直に事実を受け容れることは、できないでしょう。それでも、徐々に現実に立ち向かい、リハビリを始めるなど、できる限りのことは自分の力でやろうとする精神力が、失われた機能の分をもカバーし得る程の力になるのです。
 後天的な障害が、もたらすストレスは、計り知れません。当たり前のことができないという、苛立ち。不安。

 私は以前、大学病院のボランティアスタッフをしており、見習い期間中に、やらなければならない実習がありました。それは、「視覚障害者の体験」と「車椅子体験」です。布で目隠しをして、ペアになった健常者役の人に手を引いてもらい、病院内を歩きます。階段の昇降、曲がり角など、様々なところを歩きました。初めて体験した暗闇の世界。明かりがない、暗がりの中で「見えない」のとはまったく違います。暗がりの中でも、目を開ければ、それは「見えている」のです。階段を下りるときは、体の重心が不安定になりながら次の段を足の先で探すため、片足が宙に浮いて怖い思いをしました。その間、健常者役の人の腕をしっかりとつかみ、体を支えてもらっていました。そのとき、急に腕をつかまれたりすると、とても驚きました。名前を呼んでから触れる、次の指示をしてから介助する、当たり前のようだけれど、目が見えていたら、私たちはしないものだと気づきました。
 次に車椅子体験です。先程と同じように、ペアになり、交互に体験します。車椅子も、技術が発達し、用途や障害に合わせて様々な種類があります。その大学病院の入り口には、20台ほど準備してありました。旧式と、アルミで軽量のため筋力の弱い人でも比較的、楽に使用できるドイツ製の最新式の二種類がありました。車椅子に乗ってみると、その視線は意外と低いと感じました。すれ違う人の荷物が肩にぶつかるなどしました。そして、ちょっとした段差や道のでこぼこは、靴を通して感じる何倍もの振動が体に伝わるのです。
 ただ車椅子に乗るのではなく、足の力を使わないようにしていました。といっても、神経は通っていますから、できるだけ力を抜くことしかできません。手で車椅子を動かす体験をしたのですが、ほんの少しの段差や、歩いていてはほとんど感じない緩やかな坂道に、私は苦戦しました。
 介助犬使用者は、「ちょっとした介助こそ、頼みにくい。しかし、そのちょっとしたことこそ手伝ってもらいたい」と言います。私はボランティアの実習時に体験したことを思い出し、「ちょっとしたこと」こそ、私たちが普段、気づかないようなことであると実感しました。
 介助犬はすべてのことをカバーしてくれるわけではありません。あくまでも、介助をするのです。ユーザーは一つでも多くのことをできるように努力し、介助犬と共にトレーニングを積み、一緒に生活していくことで、ユーザーとパートナーという存在になっていきます。

私たちにできること
 介助犬は、外での勤務時は「介助犬」と書かれた青いベストを着用します。どこかで勤務中の介助犬を見かけて、むやみに触ったり、話しかけたりすると、お仕事に集中できなくなってしまいます。話しかけるなら、是非ユーザーに話しかけてください。これまでに積み上げてきた訓練の成果を目で見てもらい、一人でも多くの人にその仕事ぶりを知ってもらえたら、介助犬もユーザーもきっと嬉しいと思います。

補助犬法第二十四条は、このような条文です。

(国民の協力)国民は、身体障害者補助犬法を使用する身体障害者に対し、必要な協力をするよう努めなければならない。

 介助犬をはじめ、補助犬が今よりもっと社会に溶け込んで、このような条文がなくても協力できる世の中になればと思います。だって、介助犬はユーザーの体の一部なのですから。


<参考文献>
『介助犬シンシア』 木村佳友・毎日新聞阪神支局取材班 新潮文庫
『介助犬オリーブのきもち』 本田真智子 小学館文庫
『介助犬を知る〜肢体不自由者の自立のために〜』 燒哲也編 名古屋大学出版会
『犬にはわかる〜介助犬トレーニング〜』 矢澤知枝 誠文堂新光社


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