『介助犬と共に生きる社会へ』熊谷早苗


身体障害者補助犬学術シンポジウムへ 〜その前に〜
 1月30日(日)晴れ。すっきりとした青空の下、冷たい風が気持ちを引き締める。
余裕を持って会場に到着したため、11時30分から始まる記者会見まで、少し時間がありました。フロアをうろうろしていると、写真パネルを展示しているところでした。モノクロのパネルを少し近づいて見ると、木村さんとシンシアでした。木村さんの車椅子にそっと寄り添うシンシア。私は、シンシアの丸くて黒い目が大好きです。残念ながら、実際にお会いしたことはないのですが、介助犬関連の書籍を見ると、シンシアと木村さんの写真が使われていることが多々あります。「目は口ほどにものを言う」。シンシアの目は、写真を通してでも、優しく何かを話しかけているように見えます。
介助犬の存在を知ったのは、『介助犬シンシア』(木村佳友 新潮文庫)を書店で見つけたことに始まります。その時まで、「介助犬」という言葉を知らずにいました。「介助犬って何だろう?」と思ってその本を手にすると、シンシアが電話の受話器をくわえているショットと、電気のスイッチを押しているショットが。賢い犬なんだなぁ〜と感心しつつ、パラパラとページをめくりました。最初の数ページはシンシアのお仕事ぶりがカラーで掲載されています。その数ページを見て、シンシアの虜になってしまいました!
これが、私と介助犬の出会いでした。
 そうこうしていると、記者会見が始まる時間に。受付を済ませ、会場内へ。

補助犬法問題・使用者連絡協議会発足記者会見、開始!
 会場に入ると、記者会見を行う発言者は既に前の席に座っていました。補助犬を足元に連れた5名です。メディア関係者は8名、協議会関係者5名、手話通訳士1名。
 発足記者会見 出席者一覧
竹松栄治・盲導犬エディ(全日本盲導犬使用者の会)
清水和行・盲導犬クーリー(全日本盲導犬使用者の会)
渡辺 宏・盲導犬うらら(全日本盲導犬使用者の会)
松本江理・聴導犬美音(みお)(聴導犬使用者「タッチの会」)
山口亜紀彦・介助犬オリーブ(日本介助犬使用者の会)

 今回、行われた記者会見の正式名称は「身体障害者補助犬法改正対策使用者団体連絡協議会」(補改使連)発足記者会見です。世話人の清水さんも、会見の席で「長くて言いづらい」などと嘆いていました! 漢字ばかりで、私たちには、「何のことやら?」という印象を受けます。漢字の一区切りずつ見ていくとわかるように、内容は補助犬法の改正に向けて、使用者団体で連絡協議会を立ち上げましたというものです。
 もう少し詳しく説明しましょう。
 補助犬使用者のアクセスを国として初めて保障した「身体障害者補助犬法」が2002年5月に成立し、同年10月1日に一部施行されました。この法律は、補助犬使用者にとってずっと望まれてきた法律でした。それでも、補助犬使用者の法律施行後の生活が劇的に変わるものではなかったのです。補助犬法の附則第六条には、法施行後3年後の見直しが謳われています。それが、2002年から3年たった今年、2005年なのです。
 「法律」で定まっていないことにより、補助犬使用者が「アクセス」を拒否されることがこれまでにたくさんありました。しかし、いくら法律が施行されても、生活の場である社会を構成している国民の理解がなければ、意味をなさないのです。
 施行されたものの、補助犬使用者にとって十分でなかった点などを踏まえて、より実効性の高いものへ法改正するために連絡協議会を立ち上げることになったのです。
 
 使用者側は、補助犬法に欠陥があるといいます。海外では、同伴する権利が保障されていますが、日本はアクセスを保障するというもの。ですから、受け入れ側が拒否することも可能になるのです。たとえば、アメリカには「障害を持つアメリカ人法(ADA)1990年」という障害者福祉法があり、障害者が公共施設や、公共輸送などへサービスアニマル(障害を持つ人の助けになる仕事をするよう、個々に合わせて訓練された動物)の同伴が認められています。オーストラリアの「障害者差別禁止法(DDA)1992年」や、イギリスの「障害者差別禁止法(DDA)1995年」では、サービスアニマルの同伴のよる差別を禁止しています。
 今回、「補助犬法10条、11条」を改正してほしいという声があがっています。どのような内容なのか、見ていきましょう。

第四章 施設等における身体障害者補助犬の同伴等
(事業所又は事務所における身体障害者補助犬の使用)
第十条 事業主(国等を除く。)は、その事業所又は事務者に勤務する身体障害者が当該事業所又は事務所において身体障害者補助犬を使用することを拒まないように努めなければならない。
(住宅における身体障害者補助犬の使用)
第十一条 住宅を管理する者(国などを除く。)は、その監理する住宅に居住する身体障害者が当該住宅において身体障害者補助犬を使用することを拒まないように努めなければならない。

 このように、民間での受け入れが努力目標になっているのです。法律施行から3年が経ちますが、「就職するにあたり面接の段階で難色を示される」「民間の住宅に入居を断られた」という声があちこちから聞こえています。これでは、憲法22条の「居住・移転・職業選択の自由」に反します。補助犬使用者だって、皆さんと同じ権利を持っているのです。国の住宅、交通機関、職場で受け入れが認められるように、民間の機関でも同等に扱われることを望んでいるのです。
 また、日本には今のところ苦情処理の規定がないため、仲裁機関の設置が求められています。そして、海外のように罰則をつくる事も、補助犬の同伴が権利として認められるには必要です。
 会見の最後に、こんな一言を聞きました。「補助犬法という法律ができて、期待していました。しかし、まだ不自由なことが時折、起こります。私たちも、どこへでも自由に行きたいのです。皆さんにも理解してもらって、法律ができて良かったと思えるようにしたいです」(聴導犬使用者・松本江理さん)
会見発表者5人の足元に待機していた補助犬たちは、会見の約30分間、身動きもせず、じっと使用者を見守っていました。


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