『介助犬と共に生きる社会へ』熊谷早苗

腹が減ってはシンポはできぬ
 記者会見が終わると、昼食をはさんでシンポジウムが始まります。私は、先程、記者会見を済ませた5人と関係者数人の昼食を買いに行くお手伝いを頼まれました。記者会見に出席させていただいたお礼に、これくらいのことはお安い御用です!
 受付をしていた健康科学大学・助手の石上智美さんと買出しに行きました。初対面なので、自己紹介をしながら話をすると、盲導犬の研究をなさっているとの事。後で気づくのですが、私は石上さんの論文を読み、参考にさせていただいていたのです。こんな所で、お会いできるとは……。世の中って意外と狭いものだなぁ〜と、しみじみ。
 お茶や弁当を買い、お腹を空かせた皆さんのもとへ。何種類か違うものを買ったので、好きなものを選んでもらい、私もそこに同席させていただいて昼食をとりました。ちなみに、私はカレーです。会見が終わって、ほっとしたのか、先程までの印象と打って変わって、皆さん、楽しそうにお話しながらの賑やかなランチでした。
 私の隣には、聴導犬使用者の松本江理さんが座っており、足元には聴導犬の美音(みお)ちゃんがいました。松本さんはみんなとおしゃべりしながら、サンドイッチを食べています。私はその横でカレーをむしゃむしゃ……。ちらりと、足元の美音ちゃんに目をやると、
「?!」
鼻を両手で押さえた格好をしていました。偶然、そんな体勢になったのかなぁ〜?などと考えつつ、聴導犬として働く美音ちゃんの仕事っぷりを見せてもらいました。しかし、仕事中の美音ちゃんの隣で香り漂うカレーをもぐもぐと食べてしまったのは、かわいそうだったかな、とちょっと反省。

補助犬シンポジウム
 このシンポジウムは、日本介助犬アカデミー事務局内にある身体障害者補助犬学術シンポジウム実行委員会の主催によるもので、補助犬に関係する人たちが結集したものです。       
母体となる介助犬アカデミーは、介助犬の理解や普及を目的とした活動を行っている非営利団体で、介助犬の調査・研究をしている学術的団体でもあります。研究団体なので、育成は行われていません。奈良県立医科大学名誉教授・燒哲也氏が会長を務め、1997年に設立しました。会長が医学界の方ということもあって、組織構成がしっかりなされている上、関連する役職の専門家が多数集結しているため、多角的でより綿密な研究が行われています。介助犬・シンシアのユーザー、木村佳友さんも理事を務めています。
 また、身体障害者補助犬学術シンポジウム実行委員会の代表も、燒哲也名誉教授が代表を務めています。
 
 1.障害者自立支援給付法(仮称) 
 補助犬を必要としている人たちは、身体に何らかの障害があります。なぜ、補助犬を使用するのか。それは一言でいえば、自立した生活を送るためです。日常生活の中で、常に誰かに頼って生活していると、万が一、その誰かですらいない場合に緊急事態が生じたとしたら、命に関わることだってあるかもしれません。
 補助犬は、常に隣にいることだけでも、使用者に大きな安心感を与える役割があります。また、使用者は気兼ねなく頼むことができると言います。一人で外出する際は、常に誰かの手を借りなければ段差を乗り越えることも、買い物をすることも困難です。その前に、お手伝いしてもらうためには、見ず知らずの人に声を掛けて、頼まねばなりません。人によりますが、大半の補助犬使用者はそのことが大きなストレスになり、外出を楽しめなかったり、外出自体を控えてしまったりする人も少なくないそうです。
 厚生労働省障害保健福祉部では、障害者の地域生活と就労を支援するための総合的な制度改革・改革のグランドデザイン案を打ちたて、障害者を「保護」する立場から、「支援」する立場への転換を図ろうとしています。
 そのために、次のような障害保健福祉策の抜本的見直しがされています。

@障害保健福祉の総合化(年齢や障害種別に関わりなく、身近な所で必要なサービスを受けながら暮らせる地域づくりを進める)
A自立支援型システムへの転換(障害者が、就労を含めてその人らしく自立して地域で暮らし、地域社会にも貢献できる仕組みづくりを進める)
B制度の持続可能性の確保(障害者を支える制度が、国民の信頼を得て安定的に運営できる、より公平で効率的な制度にする)
 このような観点から、現行の制度的な課題の解決を図り、新たな体制を整えようとしています。具体的に、どのようなことが問題となっているのでしょう。

1.障害者の法律は、障害の種別によって大きく4つの法律に分類されています。身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、児童福祉法、精神保健福祉法です。それぞれの障害に該当する人が、その法律に沿ったサービスを受けています。しかし、その内容は、ほとんど同じです。だとしたら、障害の種別に関わりなく身近な所でサービスを受けた方がよいので、福祉サービスを一元化し、公平なサービスを提供しようということです。
2.現在、都道府県、市町村の窓口がバラバラになっています。目的、責務、用語の定義を規定し、国から都道府県、都道府県から市町村へ適切な支援を行うなどの相互的体制を組もうとしています。
3.国の費用負担は、「補助金」という形で出されています。補助金は予算の範囲以内でなければいけません。超過分は出なくなってしまいます。これを「負担金」とすることで、予算がなくても義務となるので、費用が捻出されることになります。
 
 このように、国は、障害者がより自立した生活を送れるように、地域の整備を重点とし、就労や公平なサービスの支援をしようとしています。そのために、費用を皆で負担し支えあう仕組みの強化、利用したサービスの量や収入に応じた公平な負担の実施、国の財政責任の明確化を見直しています。
 近年、障害者の地域社会への受け入れが謳われているように思います。身体に何らかの支障がある人を「障害者」として括ろうとしますが、一言に障害といっても、それぞれに違いがあるのです。障害種も多様化し、質的な複雑化にあります。専門職員が障害者の比率に対し少ない現状で、公平なサービスが、障害種を軽視した「公平」の名をふりまく単なるサービスになってしまわないことを願います。また、自己負担が増えることや、収入に応じたサービスが事実上公平になっても、果たしてそれが公平といえるのだろうか?などの懸念を持ちます。この法案については、現在、政府部内でも調整中であり、今後大きな変更がありうるということなので、議論する余地がありそうです。
 2月10日(金)、午前中の政府閣議で、「改革のグランドデザイン」にもとづく障害者自立支援法案の国会提出が了承されました。介護保険制度のように、障害者の状態やニーズを中立的な審査会が審査し、受給するサービス内容を決定する事、サービスを受けた場合、新たに原則1割の自己負担を導入する事、施設を出て地域で自立ができるよう、就労や住宅サービスなどの支援を地方自治体が行うこと、などを定めています。
これを受けて同日、第162回通常国会に法案が提出されました。国会審議は、実際には4月以降になる見込みで、審議の山場は5月の連休明け頃になることが予想されます。

 2.補助犬法施行後の調査と今後の課題
 補助犬法は、社会の受け入れを求めることを基礎としたものです。その一方で、使用者側にも義務があります。使用者側が常にきちんと整備していなければならないとも言えます。次のようなことが義務付けの一例です。
・補助犬の行動の管理と衛生の確保
・健康管理記録と補助犬認定証の所持
・補助犬の表示  など
  
<実態>
 以下は、日本盲導犬協会が2004年9月に全国の盲導犬使用者を対象に行った調査結果です。
・補助犬法完全施行後、盲導犬の受け入れに関する社会の理解は進んだと感じる 66%
・実際に拒否を経験した人 52%
拒否の理由……ペットの入店不可 37%
店の方針 37%
受け入れ態勢がない 16%
保健所の指導 10%
補助犬が汚れている、臭い 4%
盲導犬であることを証明する書類を所持していなかった 2%
・補助犬健康管理手帳や盲導犬使用証明書を必ず持ち歩いている 78%
・補助犬法に使用者の義務が明記されていることをよく知っている 52%
・使用者が盲導犬の体を清潔に保つと共に、予防接種及び検診を受けさせることにより、公衆衛生上の危害を生じさせないように努めなければならないという義務を知っている 91%
 
このように、使用者自身が必ずしも規則の細部まで把握していないという事実が浮かび上がったのです。今の段階では、補助犬法が完全施行されているとはいえ、周知の法律とまでは言えない状況にあります。お店や飲食店などで受け入れを拒否されても、拒否側に対して罰則がない状態です。しかし、今、使用者が常に受け入れを認めてもらえる体勢でいなければ、他の使用者にも迷惑がかかることになってしまいます。
 法の見直しと共に、使用者が果たすべきことの見直しもしなければならないようです。

<一般市民の意識調査>
 日本盲導犬協会が2003年8〜9月に、東京都、神奈川県、仙台市で行った調査によると、補助犬法が施行されたことを知っている 46%
補助犬を受け入れることに賛成 83%
という結果が出ました。私の周りにいる同世代の数人にも、同じ質問をしてみましたが、知っている人はいませんでした。しかし、補助犬の受け入れに対しては、知らないと答えた全員が賛成すると答えていました。
 価値観の多様化、個性重視の風潮の中、最近では、障害も個性の一つであるなどといわれるような時代になりました。そういった良い流れに乗って、補助犬も温かく見守られて社会の中に溶け込んでいけたら……。そう願うのは、贅沢なことなのでしょうか?


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