『透明な英雄』大隅亮
序 文
口にたまったハミガキ粉をゆすごうと東京の水をふくんだ瞬間のことをぼくは忘れない。耐えがたい苦みと悪寒が身体いっぱいにひろがって二の腕まで鳥肌がたった。生まれそだった町から上京してむかえた最初の夜のできごとだ。それから数えて三回目の春をむかえた現在ではさすがに都会の水にもなれて、毎朝そいつで顔を洗い、歯をみがき、寝ぐせを整えるようになった。しかし今度はおかしな習慣が染みついてしまった。三島に帰るとぼくは飽きもせず水ばかり飲んでいるのだ。だからこれは愛する水への感謝状なのだろう。
透きとおる水へ。
二○○五年五月、東京