『カミングアウト』篠田茜
征司君のカミングアウト
こんなふうに、今の日本でゲイを取り巻く環境は、良くなってきているとはいえ、大変そうだ。それが分かってからしばらくして、ある夜私がバイトから帰って来ると、玄関先に力の抜けた様子の征司君が座っていた。顔には生気がなくて、明らかに様子がおかしい。
「……征司君、どうしたの!?」
ちょっと慌てた私に対して、それとは対照的に征司君がゆっくりと答えた。
「……今日ねー、彼女にカミングアウトしたの」
「……あ、そうだったんだ。んで、反応は?」
「……うん、彼女泣いちゃった。……人ってびっくりすると泣くんだね、初めて知ったよ。……それから、彼女は信じられなかったみたいで、『どっきりじゃないよね?』って何回も聞かれた……。でも、彼女すごく良い人だった。『理解する』って言ってくれて、これからも友達でいようって」
「……そっか、じゃあ良かったね。……お疲れ様。がんばったねー」
そのうちに征司君はもぞもぞと四つんばいで自分の鞄まで行き、プリクラを取り出して見せてくれた。
「これ、カミングアウトした後で彼女と撮ったの」
そこには、爽やかに、だけど少しぎこちなく笑う征司君と、そばに寄り添って笑う彼女の姿が写っていた。こんなに近寄っちゃってカップルっぽいなーと思いながら、「彼女可愛いね」と言うと、征司君はこうつぶやいた。
「このプリクラに写ってるのは普通のカップルだよね。なんの問題もない……」
……「フツウ ノ カップル」。そう、このプリクラに写っているカップルなら、「普通」に街中で手をつなぐことも出来るだろうし、相手に対する恋心を友達に何の不安もなく告げられるだろう。このカップルなら、からかわれることもなく、うっかり口を滑らすことも心配せずに、日常生活を送れるだろう……。だけど、征司君がこれから築いていくであろう関係は、「普通のカップル」とは違うんだ……。そう思いながら、征司君と彼女、男の子と女の子、が笑いながら寄り添って写っているプリクラを眺めると、なんだか胸がひりひりと痛む。
だけど、これは征司君の新しいスタートだ。次は、大好きな人と撮ったプリクラを、幸せいっぱいに見せてほしい。