『犯罪者の仮面を被らされた者たち Vol.2』遊佐春
非正規滞在者=凶悪犯罪者というイメージ
非人道的なように感じられるが、入管は入管法に則って非正規滞在者を摘発しているにすぎない。では、なぜ入管法がそうなっているのか、つまり、なぜ非正規滞在者はどういう状況であろうと摘発すべき対象となっているのか。その理由の1つに、治安との関係があると思う。
警察庁生活安全局生活環境課の方に「合法的な就労方法があればブローカーを頼らずに済むし、不法滞在・就労も減ると思うのですが」と聞いた。返ってきた答えは「どのような就労を受け入れるのかは国の政策の問題」。そうなれば理想的だが、単純労働者受け入れについては国が決めたことだという。法務省入国管理局も社会保障、教育、日本人の労働への影響などの観点から、各省庁・政府が決めていることだという見解だった。つまり、すべては日本人の受け入れる体制にかかっている。
では、日本人の受け入れる意識はどうかというと……。内閣府が行っている「外国人労働者の受け入れに関する世論調査」(2004年5月)というものがある。専門的な技術、技能や知識を持っている外国人の入国は認め、単純労働に就労することを目的とした外国人の入国は認めていない制度についての考えを聞いたところ、「今後とも専門的な技術、技能や知識を持っている外国人は受け入れ、単純労働者の受け入れは認めない」と答えた者の割合が25.9%、「女性や高齢者など国内の労働力の活用を優先し、それでも労働力が不足する分野には単純労働者を受け入れる」と答えた者の割合が39.0%、「特に条件を付けずに単純労働者を幅広く受け入れる」と答えた者の割合が16.7%、「分からない」が17.7%となっている。「受け入れる」と答えた者が55.7%と過半数だったのに対して、「単純労働者を受け入れない」と答えた者の割合は25.9%だったが、「単純労働者の受け入れを認めるべきではないと考えるのはどうしてか聞いたところ、「治安が悪化するおそれがある」を挙げた者の割合が74.1%と最も高かった。
その意識はどこから来ているかというと、同じく、内閣府が行っている「治安に関する世論調査」(2004年7月)というものがある。ここ10年間で日本の治安はよくなったと思うか聞いたところ、「よくなったと思う」とする者の割合が7.1%、「悪くなったと思う」とする者の割合が86.6%となっている。さらに、ここ10年間で日本の治安は「悪くなったと思う」とする者(1816人)に、治安が悪くなった原因は何だと思うか聞いたところ、「外国人の不法滞在者が増えたから」を挙げた者の割合が54.4%と最も高かった。また、自分や身近な人を犯罪に巻き込むかもしれないと不安になる組織や個人は何かと聞いたところ、「情緒不安定な人や怒りっぽい(すぐ切れる)人」を挙げた者の割合が49.9%と最も高く、その次が「外国人の犯罪グループや不法滞在者」(43.2%)だった。
では、この不安はどこから来ているかというと、警察庁が出している外国人犯罪率と入管や都及び警視庁の不法滞在者摘発キャンペーンとマスメディアでの取り上げ方にある。2003年10月、法務省入国管理局、東京入国管理局、東京入国管理局、東京都及び警視庁で首都東京における不法滞在外国人対策の強化に関する協同宣言を出し、不法滞在者の摘発強化や効率的な退去強制などを推進することとした。また、同年12月犯罪対策閣僚会議において「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」が取りまとめられ、犯罪の温床となる不法滞在者を今後5年間で半減させるために「水際における監視、取り締まりの推進」、「不法入国・不法滞在対策の推進」、「外国関係機関との連携強化」等の施策を推進することとされた。2003年には、全国から入国警備官を東京入国管理局に応援派遣の上、東京都内を中心に入管法違反者の集中摘発が行われ、退去強制手続きを執った入管法違反者は、前年度比9.5%の増加となった。
この摘発の根拠となった外国人犯罪率統計を見てみると(http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/index.htm)、検挙数は確かに増加している。しかし、この外国人犯罪率は日本人の犯罪率に比べて数%に過ぎない(外国人差別ウォッチネットワーク編『外国人包囲網』p11〜12で「来日外国人の犯罪に占める率を見てみよう。すると、長期的に見ても安定して2%前後であることがわかる。逆にいえば、98%前後の犯罪は日本人によるものなのである。外国人犯罪が増加しているという点についてはたしかに短いスパンで見ると増加している。しかし、実数は日本人よりも圧倒的に少なく、また、来日外国人の犯罪以上に日本人の犯罪が増加していることがわかる」と図入りで説明されている)。
ところが、警察では外国人犯罪率の増加を広報し、入管では摘発キャンペーンを張り、メディアでも頻繁に取り上げられる。「日本人の犯罪も増加しているにも関わらず、日本人の犯罪の増加よりも外国人犯罪の増加を大々的に広報したり、摘発のキャンペーンを張っているのはなぜでしょうか」と、警察庁の方に聞いてみた。「一般的に言えば増加率が大きいことと凶悪犯罪が多いことではないでしょうか」という答えが返ってきた。しかし、外国人の犯罪の中で凶悪犯罪もこれまた数%である(『外国人包囲網』p13で、「凶悪犯罪とされる犯罪は、日本人でも来日外国人でも、ともに一般刑法犯の1%に過ぎない。きわめて微小であるだけでなく、日本人と来日外国人との間に顕著な違いも見受けられない。さらに図4で確認できるように、この間の凶悪犯の増加といわれるものは、日本人による凶悪犯の増加の影響がほとんどであることが、明らかである」と図入りで説明されている)。ある警察官から、「一時の情に惑わされるべきではない。事実外国人犯罪は増えているのだから」と言われたことがある。しかし、日本人の犯罪よりも外国人の犯罪を大きく取り上げることだって情に惑わされていることになる気がするのだが。