『犯罪者の仮面を被らされた者たち Vol.2』遊佐春奈
おわりに
ある日、突然、自分がテロリストのアジトに電話をかけていて、それが傍受されていたら、どうするだろうか?
まさかと思うだろうが、案外、身近にそういうことが起きたりする。例えば、あなたが学生で、学校の課題で難民について調べていた。疑問に思ったことがあって、ある難民支援団体に電話で問い合わせてみた。実は、そこは彼らの出身国からテロ組織と名指しされていた団体だった。
唐突だが、誤解を恐れずに聞いてみた。ここで、やっぱり外国人は恐ろしい、日本でテロ活動をしようとしていたんだ、などと思わないでほしい。その「テロ組織」がテロ組織であると誰が決めたのか、落ち着いて考えてもらいたい。
国を持たない民族、クルド民族がいる。トルコ、イラク、シリア、イラン、アゼルバイジャンなど国境沿いの山岳地帯に居住している。1980年代後半からトルコ政府軍とPKK(クルド労働党)の闘争激化。村の集団移住や治安当局による迫害。90年代半ば、トルコ政府軍の「村の無人化計画」。迫害を逃れたクルド人たちが日本にもやって来て、埼玉県川口市や蕨市に住み始めた(蕨、川口だけで400人くらいいるという)。そして、2003年、その地に「クルディスタン&日本友好協会」をつくり、クルドの文化紹介や地域住民との交流の拠点にした。ところが、トルコ政府から日本政府に「蕨にテロ組織がある」と協会の事務所の撤去要請がきた。日本はトルコと友好関係にある。だから要請に応じた。警察が事務所を強制捜査したこともあったという。そういえば、事務所には物があまりなかった。難民申請者の1人が麻薬を持っているとでっち上げられたことがあったという。それ以来、いつも片付けておくようにしているそうだ。事務所のあるビルはいつもシャッターで閉められていて、外部からの侵入者を恐れているようだった。協会の事務所は常に監視され、電話も傍受されているのだという。それを聞いた時、私は内心驚いた。電話で「爆弾」とか「麻薬」とか言っていたら警察が動いたのだろうか。自分がそういうことを言う必要もなく、あり得ないことだし馬鹿げているかもしれないが、一瞬本気で考えた。けど、彼らが危険だとは思わなかった。その代わり、こんなことを考えた。
ある境界線があって、一線超えると自分の置かれている状況が一変する。それは当たり前のことなのだけど、当たり前すぎて結構見過ごされていることがある。私が出会った人は皆そういう状況にあった。
ある日突然、テロリストになる。
難民と認定される。
犯罪者になる。
被害者になる。
日本人になる。
その境界線は私たちが勝手に作っているものであって、見直されても良いと思う。もしそれが誤解とか思い込みで作られているのだとしたら。
<参考資料>
外国人差別ウォッチ・ネットワーク『外国人包囲網「治安悪化」のスケープゴート』現代人文社2004年
特定非営利活動法人難民支援協会『難民申請者の住環境に関する状況調査』2004年
DAWN−Japan『DAWN−Japan資料集』2004年
DAWN−Japan第6回フィリピンスタディーツアー報告書『フィリピンと日本の人のつながりって何だろう』2004年
法務省入国管理局編『出入国管理』2004年