『犯罪者の仮面を被らされた者たち Vol.2』遊佐春奈


予想と現実

 彼女たちは話をするより、カラオケをすることを要求してくる。「何か歌って〜」。話の途中で何度もせがまれた。場を持たせるのが大変なのだろうか。聞きたいことの核心に迫る前に45分が過ぎてしまった。この店は45分で1人2000円。先ほどの30代サラリーマン風の人たちは既に帰っていた。22時くらいに帰ったから19時くらいから来ていたと勝手に想定して、3時間普通に飲んだだけだと1人6000円。フルーツの盛り合わせが3000円くらいだったから何か食べたとしても1人1万円を切る。バブル期だと一晩で1人3〜4万円以上は使っていたという。今は1セット3000円が相場だが、バブル期は8000円から1万8000円くらい。レディスドリンクもおつまみも今は客次第だが、昔は客がコントロールできずタレントの言いなりだった。中には3〜4人の女性を同伴して同伴料2万円、居酒屋で飲んで、食べて2万円、1回で10万円なんていう人もいたという。フィリピンパブにはまってしまうと、3〜6ヶ月(お気に入りのタレントが働いている期間)に2〜3百万円、店に落ちる金額だとして店長たちは皮算用をしていた。例えば人気のあるタレントは6ヶ月の間に常連さんを5人ゲットしたとすると1千万円くらいの売り上げになる(この場合、彼女の給料は30万円くらい。店は120万円は払っているが、仲介業者に取られる)。売り上げが3分の1以下に下がった挙句、同伴が禁止になれば、それは優良店が潰れていくのも無理ない。
 フィリピン訛りの「どうもありがとうございました〜」というにぎやかな声に見送られて外に出る。

 フィリピンパブからの帰り道、私は混乱していた。その晩泊まる予定の潮見教会に到着しても気持ちは晴れなかった。
 以前、日本でホステスの仕事をしていたタイ人女性に会ったことがある。350万円もの借金を背負わされていた彼女は、いわゆる人身売買の被害者だった。タイの女性は単純労働のビザがあれば日本でホステスではなく、その仕事をしたいのだという。実際、彼女も借金返済後は布団屋や団子屋という仕事に就いていた。そんなことから、フィリピンの女性もタイの女性と同様、ホステスの仕事ではなく他の仕事がしたいのだと思っていた。
 ところが、フィリピンパブで出会った彼女たちは、タイの女性とは明らかに様子が違っていた。現に5回も6回も来ているハニーとアキは仕事内容を知らないはずはない。仕事に必ずしも満足しているわけではないが、家族のためには仕方が無いと完全に割り切っている様子だった。フィリピンのエンターティナーは借金もなく、外国人ホステスの中では待遇が良い方だという。外国人ホステスの待遇は、欧米・中国・韓国出身者が良く、次のランクがフィリピンで、タイなどその他の東南アジア諸国出身者はその下の最低レベルの待遇を受けているのだそうだ。同じホステスの仕事を経験したタイの女性とフィリピンの女性で様子が違っていた所以はそこにある。単純労働が認められても仕事がきつくてホステスの仕事に戻るかもしれない。そうなった時、もし興行ビザでの入国が制限されていたら……。そうなればタイの女性のように借金を背負わされたりということにもなりかねない。

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