生命科学の今

山下 祐司

1.はじめに
 
 新橋からゆりかもめに揺られながらお台場方面に向う。平日とはいえカップルばかりを想像していたため、天候と同じで気分はアン・ニュイだった。でも意外とサラリーマンや家族づれが多く、何よりも空いていたため気分は上向きとなる。着いた場所は日本未来科学館。数ある展示のなかで注目を集めるのはホンダのヒト型ロボット「ASIMO」。それだけではなく、最近では俳優・唐沢とコーヒーを飲む男、大平貴之作製のプラネタリウム「MEGASTAR-Ⅱcosmos」が有名だ。もちろん、自分も入館して早々にプラネタリウムの予約をとりにいったことは紛れもない事実。しかし、訪れた目的は別にあった。

 子供の理科離れ、科学技術立国の危機が叫ばれる昨今。1995年の科学技術基本法をもとに2001年に建てられた同館は、科学技術への理解を深めるための一翼を担う。特徴的なのは館内には展示場だけでなく研究室も置かれていることだ。そこではナノスペースプロジェクト、柳沢オーファン受容体プロジェクト、ヒューマノイドロボットを研究している松井・加賀美プロジェクトが進んでいる。これら3つの研究室を回るツアーも2週間に1回の割合で開催されている。頻度はかなり高いといえるだろう。開かれた研究を意識していることは明らかだ。積極的に先端科学を伝える同館の姿勢を見れば、国が科学技術のどの分野に力を置いているかがわかる、と考えるのは都合が良すぎるだろうか。
 常設の展示内容は最先端の科学を「地球環境とフロンティア」「技術革新と未来」「情報科学技術と社会」「生命の科学と人間」に分け展示している。目的の展示フロアーを目指しゆっくりとエスカレーターを昇る。ガラス張りの天井からは流れる曇のおかげか、ほどよい太陽光が差し込む。5階に着いた。フロアーの約半分のスペースを使って展示されているテーマ、「生命の科学と人間」はゲノムの説明からはじまる。
 さて、ここからただ未来科学館周りが続くのではない。産業に結びつく科学は科学技術立国といわれる日本の礎を築いてきた。主に工学と言われる分野だ。そのため、展示スペースの多くはヒト型ロボットや非常に小さいマイクロマシン、ナノテクノロジー、超伝導、またデジタル技術の利用を提示した形となっている。そして、今後新たな産業に結びつくのではないかと非常に期待されている分野がある。それは生物がもつ生命現象の謎を解き明かす生命科学といわれる分野だ。アインシュタインなどの物理学者が華々しく活躍した20世紀は終わり、「21世紀は生命科学の時代」と呼ばれている。
 しかし、21世紀も始まったばかり。生命科学では様々な問題が噴出している。ここでは未来科学館を周りながら、具体的にES細胞(embryonic stem cells:胚性幹細胞)という特殊な細胞を例に挙げ、過渡期にある生命科学を見ていこうと思う。それは日本未来科学館では見られないものだ。

2.ES細胞

 ES細胞(embryonic stem cells:胚性幹細胞)とは現在の生命科学で最も注目を集める細胞だ。このES細胞は1981年にマウスで初めて樹立された。その後、1998年にヒトのES細胞は樹立された。「樹立」とは細胞をとってきて安定的に培養可能になったことをいう。熱い視線が投げかけられる理由、それは医療産業への貢献が期待されているからだ。ES細胞は非常に‘特殊’な能力を持っている。これが産業化への鍵となる。ES細胞は
・どのような種類の細胞になる
・無尽蔵に増殖する
という‘特殊’な能力をもつ。ES細胞のみがこの能力を持っていると考えられている。このふたつの能力がどれだけインパクトを持つのだろうか。よく使われる例のひとつは不足臓器の供給源としての期待が挙げられる。
 ES細胞には先に挙げたように無尽蔵に増殖する能力があるため、どんどん増やせる。そして、どのような種類の細胞になる能力を持つため「腎臓を作る細胞になれ」と命令を下せば腎臓が出来る。「心臓を作る細胞になれ」と命令を下せば心臓が出来る。ES細胞はどんどん増殖するので同じ命令であろうが違う命令であろうが、必要な分だけES細胞を増やして様々な命令を下せばよい。このようにES細胞が他の細胞になっていくことを「分化」とよぶ。
 
 現状ではさすがに臓器を丸ごと作るまでには至っていない。しかし、治療を目的とした基礎研究は進んでいる。最も進んでいるのは臓器移植ならぬ細胞移植による治療だ。ターゲットとなる疾病はパーキンソン病、糖尿病、心筋梗塞など。ES細胞にそれぞれの命令を下して必要な細胞になれと命令する。例えばパーキンソン病の場合。パーキンソン病とは運動障害を主とする神経変性疾患で発症原因の一つは神経伝達物質のドーパミンを作る量の低下による。そのため、ヒトES細胞をドーパミン産生細胞に分化させ、移植でドーパミン不足を補うというものだ。このようにES細胞を使って変性した細胞、または損傷臓器に新たな細胞を供給し回復を図る方法がマウスなどで実験されている。
 また、新薬テストのためにES細胞を利用できる。ヒトES細胞から必要な細胞に分化させ、それで薬剤テストをするのだ。安全性を確かめる上で、実験動物よりもヒトの組織を使ったほうが良いことは想像しやすいだろう。もちろん薬剤だけではなく食品、化粧品の検査にも利用できる。

3.ヒトES細胞の問題点

 生命科学に期待がかかる一方、生命を扱うために問題が生ずる。もちろんES細胞も例外ではない。問題になっている点を示すために、ES細胞の樹立の仕方について説明する。そして、先ほど述べたES細胞の応用例について少し補足を加えたいと思う。
 非常に‘特殊’な能力を持つES細胞は胚盤胞から樹立される。胚盤胞とは卵子と精子とが受精した受精卵が卵割とよばれる細胞分裂を繰り返し、その卵割が終了する時期の受精卵のこと。ES細胞は胚盤胞の後に体をつくることになる内部細胞塊と呼ばれるところを取り出し、それを人工的に培養することで得られる。人工授精の技術を利用し体外で作製される。受精後間もない、そして将来、僕らの体のもとなっている細胞をとりだして利用するがゆえにヒトES細胞はどのような種類の細胞になり、無尽蔵に増殖するという特殊な能力を持つと考えられている。
 応用例として移植の話をした。これとて簡単なことではない。ヒトの体は非常によく出来ていて、外来性の敵を駆除するために免疫システムが備わっている。これは、自分の体を構成しているものと異なるものを排除するシステムだ。移植された臓器はもちろんES細胞由来の細胞も攻撃対象になる。免疫抑制剤を利用することも考えられるが免疫システムの低下で他の病原菌、ウィルスへの抵抗性が低くなる。
 これに対する妙案も提示されている。核を除いた卵子に患者由来の核を移植する。核には僕ら個人の遺伝情報「ゲノム」が存在している。「ゲノム」とは僕らの遺伝情報で体をつくる設計図。DNA(デオキシリボ核酸)という物質の並びで書かれている。核は僕らの体を構成している細胞ほぼ全てに存在する。患者由来の核を除核卵子に移植すると卵割がはじまる。これを「クローン胚」という。このまま、母体内に移植すれば「クローン人間」が生まれてくる。核を移植した卵子が胚盤胞になったところで内部細胞塊を取り出し培養してES細胞株を樹立する。そのES細胞を必要な細胞へ分化させ移植する。この方法を利用すれば、この細胞は患者の細胞と同じ遺伝情報を持つために拒絶反応を起こすことなく移植が出来ると考えられている。
 このとき患者それぞれのために卵子が必要になってくる。卵子はどこからくるか、いくつの卵子が必要となるのだろうか。
 
 実はこの患者由来の核を卵子に移植しその卵からES細胞株の樹立に成功した報告がかつて存在した。「かつて」といったのは、報告論文が捏造だったのだ。この事件はソウル大・黄禹錫・元教授の研究グループが患者由来の核を卵子に移植し、その卵からES細胞株を樹立したという世界初の報告をした。まさに、拒絶反応のない治療用ES細胞がつくられたのだ。しかし、実は患者由来のES細胞株は無く、さらに2000個以上の卵子が使われたことが明るみになった。
 技術的にも研究段階のES細胞を100%目的の細胞に分化させるには至っていない。分化前のES細胞が残っていて体内に入った場合、それは癌細胞になる可能性がある。

4.生物学から生命科学へ

 すでに臓器をつくった人がいる。といっても当然ヒトの話ではないし、人工臓器でもない。両生類のはなしだ。
 両生類の臓器をつくったのは東京大学大学院総合文化研究科・浅島誠教授。専門は発生生物学。「発生生物学」とは精子と卵子が受精して細胞分裂を繰り返し、体がつくられる。この受精卵から体がつくられる仕組みを調べる学問を「発生生物学」という。
 浅島教授のチームはカエルの眼、心臓、腎臓をアニマルキャップという細胞からつくり上げている。そして、臓器移植をして正常に機能することを確認している。「アニマルキャップ」とは両生類の受精卵が卵割、細胞分裂を繰り返し胞胚期と呼ばれる段階の卵の一部を切り取った細胞群だ。ES細胞のようにどのような種類の細胞になりうる特殊能力を持つ。眼、心臓、腎臓を以外にもアニマルキャップから血球系、神経系、筋肉系の細胞など多くの細胞へ分化させている。これは生体内で臓器が出来てくる仕組みを調べていた結果わかってきたことだ。そして、カエルの結果を利用して浅島教授のチームはマウスES細胞を使った研究を始めている。

 蝉が忙しそうに鳴いている夏真っ只中の8月、駒場の森を抜け東京大学構内の研究室を訪ねた。
――現在、マウスES細胞を使ってどのような細胞に分化誘導できていますか。
「心筋ですね。あとは腸管とすい臓、脂肪細胞、神経細胞、軟骨、食道、繊毛(ができてています)。あと骨(硬骨)も少しできています。全部で10器官はできていますね」
と、浅島教授は答えてくれた。浅島教授は両生類を用いて生き物の体づくりのメカニズムを研究している。その浅島教授がなぜ両生類から哺乳類へ種の超えマウスES細胞を使った研究を始めたかを聞いた。
「実際、研究を始めたのは五年くらい前になりますね。一つはカエルで取れた遺伝子、腎臓なら腎臓で働いている遺伝子がマウスでも同じような働きをすることがわかってきた。その遺伝子がヒトの病気の原因遺伝子だった。そこからその遺伝子が種を超えて共通に働いていることがわかってきた。アニマルキャップから臓器を作れたのは、カエルだから出来たのだろうと。マウスでそんなことできるわけないだろうと、学会などでそういう話がでるので、マウスのES細胞を含めてやってみようというのが事実ですね」
――アニマルキャップとマウスES細胞では同じような条件したときにおなじような臓器の細胞ができるのでしょうか
「必ずしもそうではありませんが、……基本的にカエルのデータがマウスに応用できたということになります」

 「遺伝子」とはゲノムの中で特定のタンパク質をつくることが明記されている場所。僕らの体は数万とも言われる遺伝子がうまく働いてつくられる。1980年代から種を超えた「遺伝子」の働きがわかりはじめてきた。体をつくるのに重要な働きをする遺伝子は進化を通じて持ち越され、共通のメカニズムで生物の体をつくっていることがわかってきた。カエルの腎臓で見つかった遺伝子がヒトで重要な働きをすることがわかったのもそのひとつだったのだ。ということは、種を超えた共通のメカニズムがあるのだからアニマルキャップから臓器を作れたとすれば、同様の特殊能力をもつES細胞へ眼が向けられても何の不思議もない。

 体ができあがるメカニズムを調べられているのはカエルだけではない。よく調べられているのは酵母やショウジョウバエ、線虫、ゼブラフィッシュ、マウスなどでモデル生物と呼ばれている。未来科学館のなかにも小学生でにぎわっている場所がある。「次は俺がやる」「飛んだ、飛んだ」などの声で溢れかえっている。視線の先には奇妙な昆虫たちが飛んでいる。翅がたくさんある昆虫や眼が青かったり、赤かったりする昆虫。といっても全てバーチャル生物。画面の中をときには元気よく、ときには弱々しく飛んでいる。このコーナーはゲノムを説明したパネルの隣にある。小学生は真剣にいろいろな昆虫を作るために操作を繰り返す。このバーチャル昆虫、実は「遺伝子」をいじっているのだ。小学生たちがつくった翅がたくさんある昆虫では極端な話、翅をつくる遺伝子をたくさん働かせる。眼が青い昆虫は眼を青くする遺伝子を働かせる。赤い昆虫は眼を赤くする遺伝子を働かせる。といった具合に、遺伝子の働きを調節して昆虫をつくっているのだ。そんな奇妙なバーチャル昆虫の隣には顕微鏡が置かれている。注意深く覗いてみると体長1mmほど、体つきはイトミミズに似ている線虫が体をくねらせていた。
 このように線虫やバーチャルではあるが昆虫がいたりする。浅島教授のカエルのように、体をつくるメカニズムが調べられ、結果的にヒトの仕組みを調べることもつながっている。応用することで医療に通じることがあるのだ。先にあげたモデル生物のゲノムプロジェクトは終わっている。

――現在の発生生物学と医療の基礎研究とは不可分なものだと思うのですが、発生生物学がヒトへの応用にとらわれている気はしないですか。
「基礎から応用に結びつくことはいくらでもあるわけで、お互いそれは関連していくことが学問を発展させることです。例えば、カエルの遺伝子はヒトにもマウスにも同じようなものがあることがわかっていますので、共通性を見ていくのがこれからの学問だと思うのです。ゲノムもいろいろ解ってきましたから、新しい生命科学を見ていくことが出来るでしょう」

 小学生の後は「脳」機能の紹介を横目で見ながら、視線を少し先に向けるとヒトの模型が並んでいた。「正直、夜には見たくないな」と思いつつ脚を進める。ヒトを水平方向、垂直方向にスライスした断面が重ね合わされている。MRIの原理を示したものだ。医療に関わる所に来たことを感じながらロボット手術を操作する「故障中」のレバーにそっと触れてみる。ヒトの人工心臓、人工中耳、新しい素材をつかった人工骨など解説を詳しく読みながら「生命の科学と人間」のスタート地点に戻ろうとすると、そこにはES細胞を治療に用いる「再生医療」を示したパネルがあった。既に説明してきたES細胞株樹立の方法とES細胞を分化させ治療に利用できることが描かれてあった。

5.治療のための研究へ進むには

 2006年8月27日付の『読売新聞』によると、ヒトクローン胚研究を計画していた京都大学・再生医科学研究所・中辻憲夫所長は当面、ヒトクローン胚研究に着手しないと表明したという。ヒトクローン胚の作製は現在のところ、「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」とこれに基づいた「特定胚の取扱いに関する指針」でその作成が禁止されている。ヒトクローン胚の研究解禁に向けた改定指針案ではヒトES細胞株の樹立経験が必要になる。国内でその経験があるのが同研究所だけ。中辻所長の表明により、改定指針案が成立してもヒトクローン胚からES細胞を作製する研究が進む可能性は低くなった。理由は卵子の入手条件の厳しさにあるようだ。同日付の『産経新聞』には、脊髄損傷患者でつくる日本せきずい基金・大濱眞理事長の「研究のために規制をかけすぎている」との声が載せられている。
 浅島教授に最近のヒトES細胞、体性幹細胞の治療への期待をどのように感じているかを聞いたときには「(患者の)負担が軽減されるなら新しい治療方法として考えていいわけです。国民の信頼を得るには歯止めをきちんとかけとくこと、安全で確実な技術を使うことが必要です」と答えてくれた。しかし、新聞での報道を見ていると、新しい治療方法の確立はなかなか難しいと感じる。少なくとも国民の信頼を得るにはいたっていないように思える。

 このように現在のヒトES細胞を利用した研究は揺れ動いている。ヒト、マウスES細胞を使って研究している理化学研究所・発生・再生科学総合研究センター・多能性幹細胞研究チーム・丹羽仁史チームリーダーは雑誌、『細胞工学』(Vol.23 No.11 p.1254-55)でヒトES細胞がとりまく現状と倫理観についてこう書いている。

…… ヒトES細胞樹立が発した波は瞬く間に巨大化し、著者自身もその波に飲み込まれていくことになる。何がこの巨大化を後押ししたのか、著者が考えるには、再生医学が産業化の標的として見なされ、その資本主義的競争原理が強く働いたことが第一の原因だろう。…… しばしば、“治療を待つ患者のために”という意見が優勢になるが、果たしてこのような意見をいつまでも“錦の御旗”にしてよいのだろうか? …… もはや、この単純な発想で処理できないところまで、我々の生命科学は到達してしまっている。確かに倫理を語ることは難しい。だが、これを“語り得ないこと”として沈黙し、暗示的に指し示すだけでは、もはや済まされない。なんとかして今こそ、綿密な議論のもとに生命科学を制御する新たな倫理観を打ち立てなければならい。……

このあとに丹羽チームリーダーはトム・L.ビーチャムとジェームス・F.チルドレスの生命医学倫理の四原則(自律尊重、無危害、善行、正義)やジョン・ロールズの正議論に触れ、原則主義によって導き出されるような“正しい解答”を求めているとの気持ちを吐露している。また、一方、同研究センター・幹細胞研究グループ・西川伸一ディレクターは

…… 多様な価値観を持つポストモダン社会では生命倫理の問題でも何が正しいのかを 決めることができない。ポストモダン社会において私たちが模索すべきは、多様な価値を受け入れながら意思決定を行っていく仕組みをどう作るかということす。……

と、著書『痛快!人体再生学』(集英社インターナショナル)の第9章で書いている。さて、どう感じただろう。当然ながら研究者により考え方は異なる。
 実は、様々な夢が語られ、期待を受けているES細胞への疑問がこのルポに取り掛かった理由だった。治療を“錦の御旗”に進むES細胞を利用した研究に省みられていない点が多いのではないか、と思っていた。今回は少ないながらES細胞の問題点や韓国で起きた事件を挙げ、倫理的な問題が起こっていることを提示し、自分の抱いていた疑問点を示したつもりだ。しかし、現状をみればみるほど、話はセンチメンタルな倫理を振りかざすことを許してくれない。
 ES細胞にかぎらず、今回はほとんど触れていないがクローン胚を利用すること。また、ヒトを含めた各生物のゲノムプロジェクト、生殖医療、再生医療、脳死問題も別の話ではなく有機的につながっている。各々の技術的、機能的つながりから新たに発展している生命科学。それに新しく可能になった複雑な生き方の取捨選択を次々に提示され、決められない自分がいる。今回、うまい道理が導けたかといえば決してそんなことはない。陳腐な言葉になってしまうが、どのように生きて、死んでいくかの。もう一度、考えることから始めることになりそうだ。

6.最後に

 文中で触れなかったことを補足しておきたい。国内のヒトES細胞の樹立は「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」により、現在、京都大学・再生医科学研究所でのみ行われている。ヒトES細胞を使った研究も同指針により特定胚及びヒトES細胞研究専門委員会の審査をうける必要がある。どのような研究が行われているか、以下のサイトを参照して頂きたい。http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/seimei/04031202.htm
 ES細胞以外にも体性幹細胞という細胞の研究が進んでいる。この細胞はES細胞より分化できる細胞の種類が限られると考えられているが、受精卵ではなく体内から取り出して増やせることから倫理的面への配慮が少なくてすむ。だが、これもまだ研究段階にある。
 組織再生の研究ではティシュー・エンジニアリングと呼ばれる技術がある。『再生医療工学』(工業調査会)によるとその定義は患者自身の細胞をつかい、その細胞が分化増殖するための足場と細胞の分化増殖を調節することによって患者の新しい組織を再生しようとする技術となっている(もちろん例外もある)。この『再生医療工学』の序文で、鈴鹿医療科学大学の筏義人教授は

…… 問題はそのES細胞が本当に治療に使われるのか、と言う可能性である。…… 期間を5年以内としぼると、その実現性はきわめて低いのが大方の意見であろう。…… 再生医療の早期実現化のために国家研究予算のきわめて多くの部分が、ES細胞が万能細胞という理由だけで、長期にわたる基礎研究に流れるのは問題である。……

と書いている。基礎研究は必要だろうが治療を考えるのならば、ES細胞に飛びつく現状は間違っているのかもしれない。もちろん、良い成果が出ないことはあるだろう。何よりも研究が滞った時に、治療を謳っていた偽の「誠実性」が見えないことを願ってやまない。

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コメント

オパーリンの提唱する「コルセアヴェート液滴」から、2010年近傍に於ける進展度は如何なものですか。参照できる雑誌、本、論文、学会、研究室、大学院なんでも結構なので、ご教授願いたいのですが。ご多忙中、勝手なお願い、申し訳ありません。よろしくお願い致します。

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