まちを変える鉄道 〜 つくばエクスプレスより
新たな移動手段
地下深く続く道のりは、どこまでも続く。ホームはどこまでいけばあるのだろうか? 改札までに、3つのエスカレーターが続き、ようやく改札があり、それを抜けるとまた長いエスカレーターが2つ続き、やっとのことでホームに辿り着く。地上からホームまで移動するために、きっぷの購入する手間も含めて4~5分かかる。ちなみに、あまりのホームまでの道のりの長さを敬遠してか、一気に地上から改札、改札からホームへ移動できるエレベーターには、行列ができる。
初めて乗車する人が駅に向かうとあまりの駅ホームの深さに、間違いなく驚くのではないだろうか?
正直言って、東京都内を走っている地下鉄の深さの比にならない程、地中深くにホームがある、つくばエクスプレス(TX)秋葉原駅。このTX秋葉原駅は、ちょうど真上にJR山手線秋葉原駅があるにもかかわらず、乗り換えのために、徒歩8分を要するほどの深さである。
TXはどれだけ快適に、どれだけ速くつくばまで移動できるのだろうか?そして、完成して約1年、TX沿線がどのように変わったのか、その様子も気になる。
私は、学生時代に筑波大学に在学していたのだが、都内への交通手段は、つくばセンターから東京駅を行き来する高速バスか、つくばセンターから市内バスで JR土浦駅まで移動し、常磐線で上野まで向かうかどちらかに限られていた。いずれの交通手段も、60分以上はかかり、バスを使用するので、道路の交通状況で到着時間が大きく変わってくる。当時は、このような近未来的なというと言い過ぎかもしれないが、つくばまで1時間もかからずに移動できる電車が通るなど、考えもしなかったし、夢のまた夢としか思っていなかった。
―念願の高速鉄道TX―
最新の鉄道技術を盛り込んだ、安全性、安定性、そして高速性のいずれも最高水準の鉄道。首都圏と筑波研究学園都市まで45分で繋ぐ夢の鉄道。つくばエクスプレスに対して、このような表現で、メディア、自治体の広報誌などで紹介される。
TX の全駅施設は、ホームと車両床面との段差を極力小さくして、スムーズな乗降ができるような、だれにでもやさしいユニバーサルデザインを取り入れており、さらに、障害者や高齢者に配慮したエスカレーターとエレベーター、ゆとりある改札口、わかりやすい案内表示や多機能トイレ等の導入で、快適性を追求している。安全面においては、最高時速130キロで走ることのできる車両に対して新幹線並みの自動列車制御装置(ATC)と自動列車運転装置(ATO)を搭載し、仮に運転士がいなくとも列車は自ら減速や停止を行えるのである。また各駅にはホームからの転落を防止するための可動式ホーム柵を設けている。
そして、今年7月に首都圏新都市鉄道とインテル、そしてNTTブロードバンドプラットフォームの3社で、TX全20駅構内と一部の車両に、インターネットに接続する無線LANを配備し、開業2年目を迎える8月24日には、高速に移動する列車内でも安定した通信状態でインターネットに接続することのできるサービスを開始し、利便性がさらに向上する。
そんな夢の最新型鉄道に乗ろうと、地下奥深くのホームで電車を待つ。
午前10時30分、つくば行き快速電車に乗車する。秋葉原~つくば間の車両に設けられているセミクロスシートいわゆるボックスシートに座り、外の景観を眺めながらつくばに向かうことにした。
TX は、各駅停車である普通電車ほかに、区間快速、そして快速電車が設けれており、それぞれ20駅、16駅、そして9駅に停車する。秋葉原~つくば間の所要時間は、各駅停車を利用したとしても1時間以内で移動できる速さだ。まさに通勤圏内の時間である。秋葉原駅から北千住駅までの5駅はすべての電車が各駅に停車する。そして、北千住駅以降で各電車、停車駅が異なってくる。
地下奥深くから発車する秋葉原駅発つくば行き快速電車は、南千住まで地下奥深くを走行する、もちろんその間、景色は何も見えない。雰囲気は地下鉄と何ら変わらない。
ちなみに、電車広告の中に貼られていた、つくばエクスプレスクイズによれば、TX路線の最深部は、新御徒町駅~浅草駅間の地下48メートル、約16階建てのビルがすっぽり入ってしまう深さだそうだ。現に新御徒町駅で乗り換えることができる都営大江戸線は、TXに乗り換える時は、あの地底深くにあることで有名な大江戸線の構内からさらに下る訳だから、如何に地下奥深くのところに駅があるかわかる。
TXは乗っている間は非常に静かである。敷かれているレールは新幹線同様、ほとんど接ぎ目が無い。他の電車で走行中によく感じる「ガタンゴトンガタン・・・」という音と揺れは無い。また、急カーブになっている箇所が設定されておらず、体が持っていかれるような横揺れもほとんどない。
南千住を過ぎると、北千住に向かう途中で、電車は一旦地上にでる。隅田川を越えた電車は地上駅である北千住駅に停車する。隅田川と荒川に挟まれたところにある北千住駅は、JR常磐線、東京メトロ日比谷線、千代田線、そして東武線と多くの鉄道が乗り入れる都内東部の玄関口である。4線も鉄道が乗り入れているせいか、はたまた2つの河川があるせいか、北千住駅を地下に置けなかったのかもしれない。北千住駅を出ると、荒川を越えてまた地下に潜ることとなる。快速電車は、ここから南流山駅まで間の4駅を通過することになるのだが、北千住駅以降にある青井駅近辺や六町駅は、足立区の中でも都営住宅が非常に多い地域であり、区画整理がうまくできなかったためであろうか、もしくは、近隣住民の騒音問題に配慮したためなのか、北千住以降また地下に潜ってしまう。その後、電車は六町駅を過ぎると、また地上に顔を出し、八潮駅、三郷中央駅の間、しばらく地上を走ると地下駅である南流山駅に向かうといった感じで、土地柄の事情と駅の立地条件等の問題なのだろう、TXは地上と地中を行き来する。まさに、建物、川、そして他社鉄道といった障害物を巧み切り抜けるかのように都心を抜ける。上下し、曲がりくねりながら都市を抜けて行く路線は、まるでTXが開通するまでの軌跡を象徴しているかのようだ。それは決して順風満帆ではなかったのだ。
(鉄道開発~世紀を超えて)
21世紀、最初に産声を上げた新規通勤鉄道、などと言うと聞こえはいいが、つくばエクスプレス(TX)が誕生するまで、多くの歳月を費やし、多くの人々が関わり、多くの資金が投入された。
TX 開業までの歴史を辿ると、約30年前の1978年に当時茨城県の竹内藤男知事(故人)が発足した「県南県西地域交通体系調査委員会」による、TXの前身でもある「第2常磐線」構想の発表までさかのぼることになる。そして、一県知事の強い思い入れで端を発した壮大な構想が、茨城県関係者の切なる思いとなり、長年の働きかけによって、ようやく国に認められるまで7年を要することになる。約20年前1985年、当時運輸大臣の諮問機関であった運輸政策審議会(運政審)が「東京圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備」についてまとめた答申の中で、常磐新線は「都市交通整備上、喫緊の課題ある」と位置づけられた。ここで初めて、政府機関によって鉄道建設計画が認められることになるのである。
第2常磐線の名前の通り、当初は現在の常磐線に平行する新線として当時の国鉄(現在の東日本旅客会社――JR東日本が建設を担当すると想定されていた事業だった。1978年7月の運政審答申の中で常磐線については、「早期に、国鉄などの関連鉄道事業者、地方公共団体、金融機関などからなる検討の場を設け、整備の具体化を図る」と求めており、これを受けて1979年の9月には、運輸省と、東京都、埼玉県、千葉県、そして茨城県の1都3県、JR東日本からなる「常磐新線整備検討委員会」が設置されているほどである。しかし、JR東日本は事業の中軸として期待されていながら、民営化後の経営方針で、基本的に大きなリスクを抱えるのは難しいという判断で、常磐新線事業計画から離脱することになる。
このJR離脱というアクシデントの後、県内鉄道体系の整備への思い入れが強かった茨城県、浅草方面から足立区への鉄道整備に前向きな東京都、周辺自治体、そして二百社あまりの民間企業の出資により、第3セクター首都圏新都市鉄道が1991年に発足させることとなる。その時の出資の割合は、東京が4、茨城が3、千葉が2、そして埼玉が1と決まった。1992年には、第1種鉄道事業免許を取得、ここでようやく鉄道整備事業の着工への準備に着手されることとなる。
その後、1994年10月の秋葉原駅の起工式を皮切りに、沿線20駅と区間工事が次々と着手され、開通年次の2000年での開業には間に合わなかったものの、5年遅れの2005年に全線開業を迎えることとなる。
かくして、1978年に構想された第2常磐線はつくばエクスプレスと名を変え、東京都足立区・荒川区・台東区・千代田区(秋葉原、新御徒町、浅草、南千住、北千住、青井、六町)、埼玉県(八潮、三郷中央)、千葉県(南流山、流山セントラルパーク、流山おおたかの森、柏の葉キャンパス、柏たなか)、茨城県(守谷、みらい平、みどりの、万博記念公園、研究学園、つくば)の1都3県、計20駅の鉄道として、まさに世紀を超えて念願の開業を迎えることとなった。鉄道建設費は9千4百億円、沿線の開発面積は約3千3百ヘクタールに及び、全長五十八・三キロの総延長距離の間に道路との踏切は1つもない全線立体交差方式の未来型鉄道の完成である。
終点のつくば駅まで残り10駅、TX沿線駅で千葉県最南端の駅である南流山駅を出発すると、ほとんど地上を走るのだが、つくば駅に到着するまでにある途中駅は、一部を除いて、まだまだ都市開発が進んでいるはとても言えない状況である。駅の周り、沿線に広がるのは見渡す限りの田んぼ、つい30分前に商業ビルの建ち並ぶ電気街秋葉原にいたとは思えない落差である。それでも、そんな一面に広がる田園風景の中でも、遅ればせながらマンションが駅前になると所々で着々と建設されている光景が目に入ってくる。また商業施設の建設も若干ではあるが見受けられる。
このような田園風景に近代的な高層マンションというアンバランスな光景を繰り返し目にしながら、TXの下り終点駅のつくば駅に到着する。当たり前だが、時間通り11時15分に到着、快速電車の所要時間である45分で到着することができた。
TX 線20番目の駅つくば駅も、秋葉原駅同様、地下駅である。もちろん周りの風景などないので、とても自分がいまつくばにいると思えない心境である。階段を上がると、改札口があるフロアに出る。ここでもつくばに到着した実感がない。改札口とは反対側のスペースでは、茨城県内でとれた野菜等を売る露店がいくつか出ていた。これをみて田舎に来た実感は湧いてくる。
駅構内の雰囲気で言えば、最近できた都内の地下鉄駅と変わらない。都営大江戸線の都庁前駅やりんかい線の各駅の感じであろうか。改札を抜け、エスカレーターに乗り、地上に出るとようやく見覚えのある風景が目に入る。
つくばセンター。
それは、2005年8月23日までは、つくばの住民にとって、都内で仕事がある時、実家に帰るために新幹線駅のある都内に向かう時、なくてはならない交通手段、高速バスが止まるバスターミナルである。
そのつくばの交通の要所でもあるつくばセンターが、TXつくば駅のエスカレーターで地上に出た目の前にあるのである。つくばセンターから出るバスは、東京駅行きだけではない。JR水戸駅に向かうバスもあれば、成田空港、羽田空港、そして大阪に向かうバスもそろっている。他の鉄道駅であれば、バスターミナルが隣接するのは当然である。しかし、東京に向かう足として使う交通手段で、時間においても、価格においても、完全に競合するTXがつくばセンターの隣にあることに対して、その時不安を覚えた。東京つくばセンター間の高速バスを運営する関東鉄道に対してである。
(TX開通前後の高速バス)
つくば東京間の行き来において、高速バスはまさに交通の大動脈であった。その高速バスは、つくば市の人口の十倍に当たる年間180万人超が利用し、関東鉄道の高速バス事業の約3割~4割弱を稼ぐ路線であった。
その金のなる木とも言うべきドル箱路線、東京つくば間高速バスが、2005年8月24日、TX開業日からどのように変わっていったのだろうか。元つくば市民で、高速バスを愛用していた私にとっても心配である。
- 時間との勝負 -
実際に、つくば市にいる学生は電車と高速バスのどちらを利用しているのだろうか? 私が在籍していた研究室の学生に取材してみた。すると、異口同音にこう言う。
「就職活動の時はTX」
学生の一大イベント就職活動。人生を決める分岐点。面接の遅刻などまさに命取り。
つくば東京間高速バスはつくばセンター~常磐自動車道~首都高速自動車道~上野~東京というルートで移動する。予定所要時間は65分。これはあくまで「予定」だ。電車の予定時間は「信頼できる予定時間」であるが、バスの予定時間は「予定通りつけたらいいなという時間」である。バス出発時に社内では必ず「道路事情により到着時刻が変わる可能性がある」とあらかじめ断りのアナウンスが入る。バスは電車のように、予定時刻通りに到着することは難しい。ルートの中に首都高速が入っていればなおさらである。特に、通勤時間帯の朝は混む。私が就職活動の時に経験した限りでは、移動に倍近い時間がかかったことがある。バスの中で、携帯電話で面接先に遅刻する連絡を入れたこともある。つくば市に住んでいれば、採用担当者は高速バスで移動してくることはわかっているし、遅れてくる可能性はほかの学生よりも高いと認識しているので(少なくとも私の時はそのような感じに受け取れた)、情状酌量の余地はあるかもしれないが、印象は悪い。
つまり、就職活動では予定時間に間に合わせるために通常の移動時間の倍の余裕を見ないといけないことになる。このような状況が就職活動毎に繰り返されて、つくば市に住む学生は目的地に着くまでに、時間に神経を使っていたのであろう。つまり、面接官との勝負の前に、時間との勝負をしていたのである。電車を使えば、時間との「無用」な勝負は避けられる。今の学生は、TXが開通してから、採用試験に気持ちを集中させるために移動はTXを使うのだろう。
それでは、「帰り」、時間を気にしなくてもいい家路につくための交通手段は何を使うのだろうか?答えはやはりTXであった。
「だってどっち乗っても値段変わんないし」
TX 秋葉原~つくば間の運賃は1150円、東京つくば間高速バスの運賃は1150円。そう、片道運賃が全く変わらないのである。もちろん、回数券、往復券を買えば、差額が生まれるかもしれない。しかし、採用試験を受ける会社によっては交通費が出るだろう、もしくは面接で神経を使って、早く帰りたいという心理も働いているかもしれない。
TXの開通によって、つくば市の学生の大半が、高速バスから電車に流れてしまったのではないだろうか。
- 大打撃 -
それでは、TX開業の日から、高速バスはTXに乗客を奪われたのだろうか?
関東鉄道株式会社(茨城県土浦市)に現状を聞いてみた。関東鉄道総務部の塚崎氏によると、TX開業前の月平均の高速バス利用者数は8万955人、開業後の月平均の利用者数は2万4601人、開業前後で月平均5万6354人の減少、増減率で言えば前年比マイナス70%だそうである。さらに、関東鉄道が運営するすべての高速バス年間の輸送人員が、TX開業前の2004年度は238万2751人、TX開業後の2005年度が178万2857人、TX開業前後で59万9894人の減少。そのうち、つくば線のTX開業前後の輸送人員減少数が39万8632人のようで、高速バス輸送人員の1年の減少数の約6割以上がつくば線でしめることになる。
このような厳しい状況では、減便を余儀なくされるのも無理はない。塚崎氏によれば、TX開業後の11月1日に1日86往復から52往復に、そして今年6月1日に午後5時以降を10~20分間隔と午前10時から午後4時半までの便を20分間隔から30分間隔へ改正と、この1年で2度のダイヤ変更を行っているようだ。
もちろん、このような状況の中、指をくわえて見ている訳ではない。関東鉄道では、社内でつくばエクスプレス対策室を15人体制で設け、TX開業に伴う影響を調査して、数々の対応策を打ち立てている。
まずは、高速バスの十八番である夜間高速バスを関東鉄道でもTX開業後に運営を開始した。「ミッドナイトつくば号」という名称で、1日2便、TX終電後に発車しており、現在では1日3便に増便している。また、残念ながら廃止されてしまったものであるが、便数あたりのコストを下げるという目的もあり、2階建てバス「メガライナー」が運行されていた。その他、TX対応策として運営されているものは以下の通り。
・ 購入後1週間利用可能な往復割引きっぷ 「ワンウィークリターンきっぷ」 1700円にて販売
・ つくば東京間の往復とJR都区内を乗り放題にする「つくば&都区内フリーきっぷ」 2000円にて販売
・ 関東鉄道常総線とTXを組み合わせた「TX&常総ライン往復きっぷ」
TXによって、割を食っている面が目立っているが、逆に開通したことで新たな経済効果が生まれる可能性もある。その鍵を握るのがTX守谷駅である。
(相乗効果と新規開拓)
関東鉄道が運行する常総線(取手~下館間)は、守谷駅でTXと交差している。前出の「TX&常総ライン往復きっぷ」や、TX開業に合わせて、瞬く間に宅地開発と区画整理された守谷駅前周辺と守谷東地区といった事業により、守谷駅の常総線における乗降人数が増加している。TX開業前の常総線守谷駅の乗降人数が月平均2288人であったのに対して、今年3月の乗降人数は7696人、約3倍以上の増加である。この増加は、TX開業に合わせて、常総線の本数の増発、快速電車の導入など実施による効果が生まれたことも考えられるであろう。
一方で、バス事業もTXとの新たな接続路線の検討に入りつつある。関東鉄道は、他の交通会社との共同で、守谷駅から常磐自動車道を使って、茨城県の観光スポット「袋田の滝」といったルートを新規に開設している。さらに、同じ関東鉄道が運営するつくば水戸駅間の高速バス「TMライナー」を増発する予定のようである。
TXが開通したことによって、数々のアイデアが生まれており、これからも様々な企画が打ち出されるであろう。
利用者にとっては、時間の早さや運賃、そして行き先ルートによってバスか電車か、交通手段を選択できるようになったのは、移動手段の利便性が向上したと言えるのではないだろうか。とはいえ、都内に住んでいれば、バスも電車もあるというのは日常のことなのではあるが。
東京人にとって日常の交通網である鉄道。その移動手段を手に入れた茨城人、とりわけつくば人は都心へのアクセスがより速くなった。国土技術政策総合研究所(つくば市)の調査によると、通勤手段を高速バスからTXに変えた人の、毎朝家を出る時刻が軒並み遅くなり、通勤時間が20~53分短くなっている。これは、つくばがより無理の無い都心への通勤圏になったことを意味している。
都心へのアクセスが速くなれば、それは都内で仕事をする人の生活圏にもなる。
(住民大移動)
生活圏になったTX沿線地域。そうなると、その沿線で生活ができるようにマンションが至る所で建設される。TXに乗車してつくばに移動する間にも多くのマンションが目に入った。そして、マンションの建設ラッシュによって大きく街並が変わったのがつくば駅近辺である。
―創造と破壊―
つくば駅を下車して、久しぶりにつくばセンター近辺を散歩すると、TX開通前には無かったマンションが建ち並び、さらに建設中のマンションも何棟か見受けられた。私の知る筑波大学の研究員によれば、筑波大で勤務する教員のや友人の家族が、TX開通にあわせて建築された分譲マンションを購入したようである。そして、つくば市並木地区では公務員宿舎が取り壊され、マンション建設用の土地になっていく現状である。つくば市には老朽化した公務員用の宿舎が多いので、今後、さらに筑波大職員など公務員が新しい住まいを求め、主を無くした宿舎は取り壊され、マンション建設に拍車がかかるのでないだろうか。
それでは、TX開通は茨城県の人口に変化を与えたのだろうか?
―過密と過疎―
茨城県ホームページに面白いデータがある。
「いばらぎ統計情報ネットワーク」というサイトなのだが、その中に茨城県内の各自治体の人口について平成17年1月1日~平成18年1月1日の変化についてリスト化したデータを公開している。注目するのは、社会増加率である。社会増加率とは、総人口に対する社会増加の割合のことであり、社会増加とは、転入数と転出数の差のことを言う。計算式で表現すると、
社会増加率 =(転入-転出)÷ 総人口×100 = 転入率-転出率
と計算され、人口移動の指標となる数字で、別名「人口移動率」とも言う。
茨城県各自治体の社会増加率を注目すると、軒並みマイナスを示す数値やほぼ0に近い増加率を示すなか、わずか3つの自治体だけが1%以上の社会増加率を示している。つくば市、守谷市、そして谷和原村である。つくば市と守谷市は前述の通り、TXのターミナル駅がある自治体であるが、谷和原村は、平成18年3月27日に伊奈町と合併して、つくばみらい市となった自治体である。ここにはTXみらい平駅があり、TX沿線駅の中で、もっとも激しくマンション建築と宅地開発を行っている駅である。
増加数でこれら3つの自治体をみると、つくば市が2080人、守谷市が1021人、そして谷和原村が164人なので、まだ顕著な増加とは言えないが、現在も建設されている高層マンションがみらい平駅前で見受けられたので、今後さらに社会増加率は増えるであろう。
このように、データからもTX開通によって人口変動に影響が与えたことがわかる。そして、対照的にTXから離れた自治体は、対照的に人口の流出をデータから読み取ることができる。このように、鉄道が建設され利便性が向上する代償として、人口に偏りが生じてしまうことがはたしていいことなのだろうか?
(鉄道建設とまちづくり)
2006年6月9日、首都圏新都市鉄道は2005年度決算を発表した。1日あたりの輸送人員は、開業当初の需要予測13万5千人を上回る15万人で、それにあわせて営業収益は、当初の予想を50億円上回る140億円を計上した。新規路線の営業としては、成功と言えるのではないだろうか。都圏新都市鉄道株式会社広報部の横野氏の話によれば、平成22年度の1日あたりの目標乗客数を27万人と、1年目の倍の設定しているようであるが、開業1年目の予想以上の輸送人員数と、沿線エリアの活発な宅地開発のおかげで、どうやら先の見通しも明るい。
しかし、沿線に新しいまちができることに喜んでばかりはいられない。まちができることによって、無視できない弊害も起きうる。駅前周辺の道路渋滞、都市開発による環境への負荷、沿線地域外の過疎、沿線地域の地価高騰など、今後問題は表面かするであろう。少なくとも、都内に林立する高層マンションと同じ均一の外観のものが、みどり多い田舎に作られている様子は、風情のかけらも無く、違和感を感じた。
つくばエクスプレス沿線地域、これから首都圏内で新たなニュータウンを作ることのできる、貴重な未開発エリアである。将来、快適で安心した生活を送ることのできるニュータウンになるのか、はたまた将来に不安を感じながら不便な思いで生活を送らなければいけない街になるのか、これからの開発の仕方でまちの輪郭が大きく変わってくる。
TX沿線エリアを「美しい街」にするには、どんなまちづくりが必要なのか?
(日本のニュータウン)
戦後の日本が「まちづくり」の理想として考えられてきたものがニュータウンである。
日本のニュータウンは、昭和37年の大阪に建設された千里ニュータウンを皮切りに、昭和43年の愛知県春日井市にある高蔵寺、そして昭和45年には東京の多摩ニュータウンと、戦後経済の高度成長と歩調を合わせるように開発されてきたものが多い。一般的にニュータウンというと、海外では、研究開発型ニュータウンと呼び、研究・開発する施設があり、そこで働く人々の住居を含むもの、またリゾート型ニュータウンと呼び、余暇を過ごす施設と住居が含まれたものを指す。しかし、高度経済成長期に作られた日本のニュータウンは、大都市部に人口が流入したことによる住宅不足の解消と都市郊外の部分的な開発によって起きるスプロール現象(都市が虫食い状態のように無秩序に宅地化されること)防止のためのもので、それによる問題が顕在化しつつある。
~高齢化ニュータウン~
高度経済成長期に開発されたニュータウンは、昭和30~40年代に多くの働き盛りの世代が入居し、今では約40年の歳月が経っている。そしてその当時入居した経済成長を支えたサラリーマン達は60~70歳と高年齢化が進み、さらに建設から30年以上経過したニュータウンは、建物の老朽化も進んでいる。
その当時のニュータウンは、建設されたほとんどが集合住宅で4~5階以上のマンションである。入居当初は生活に何ら支障をきたすことはないが、若い時に比べ身体能力が衰えた高齢者にとっては、階段の上り下りをとってみても生活の中で大きな障壁となる。また、集合住宅となると家に不都合が生じた時に、高齢化に対応できるように生活をしやくする改築がしにくいという難点もある。
さらに、集合住宅になると近所付き合いの希薄化といった問題がある。自分の生活する地域のコミュニティーと疎遠になりがちな傾向は、特に高齢者にとって、孤独感を感じる生活を強いられ精神的負担となる。最近は、人口の多い都市部で人的交流の少ない高齢者による、死後数日~数ヶ月経って発見される孤独死が社会問題化されているが、高齢化したニュータウンは、お年寄りが安心して生活を送れるように、地域交流の活性をあげる施策や活動に力を入れるべきであろう。
(ニュータウン化するTX沿線)
現在、TX沿線は駅前を中心として、急ピッチで高層マンションや分譲用の住宅の建設が進んでいる。特に、千葉県と茨城県は田畑以外何も無かった土地に鉄道を敷いているため、住宅建設用地は豊富にある。これからも宅地開発がさらに進み、都心働くサラリーマンがマイホームを求めて、TX沿線の各地に移住してくるであろう。
日本は超高齢化社会に突入し、一人の高齢者を支えるために現役世代の割合が年々減少、さらに年金などの負担が大きくなると言われている。高齢者が安心して自立した生活を送れる地域コミュニティーが形成できるように、TX沿線地域は21世紀型の新たなニュータウンの開発に、自治体・企業が共同で取り組むことが、高齢化社会に適応したまちづくりの規範として重要である。
参考文献
日本経済新聞社編「つくばエクスプレスがやってくる」
足立区発行「あだち広報」
茨城新聞(平成18年5月28日、6月10日、7月26日)
読売新聞(平成18年4月22日)
つくばエクスプレス沿線情報誌「サワワ」
サンケイリビング新聞社「沿線リビング つくばエクスプレス編」
東京新聞出版局「ニュータウンは今 40年目の夢と現実」
学芸出版社「鉄道でまちづくり」
その他、無料配布チラシ、TX内中吊り広告
取材先
首都圏新都市鉄道、関東鉄道、ジェイアールバス関東、筑波大学社会医学系環境医学研究室、筑波大学TARAセンター

