摂食障害の彼女は身近なあの子

布施 綾子


 2006年11月15日、拒食症が原因となり、21歳のブラジル人モデルが死亡していたことが判明した。翌日の水曜には撮影のためにパリへと出発する予定だった。死亡当時アナ・カロリナ・レストン(Ana Carolina Reston)は、174cmという身長にもかかわらず体重が40kg しかなかったという。レキップ(l‘Equipe)というブラジル(Brazil)のモデル事務所に所属していたレストンは、死亡の3週間前に腎不全で病院に運び込まれていた。極度の衰弱によって抵抗力が失われ、薬も全く効かなかったという。


 摂食障害は痩せることを強要される人間がなるというわけではない。ごくふつうの人に十分に発病しうる病気だ。もしかしたらすぐ身近な人も苦しんでいるかもしれない。この病気は本人もまわりも気づきにくいことが特徴でもあるのだから。

ごはん、味噌汁、おかずの朝食
それからカレーライス・うどん・スパゲティー・食パン2枚・菓子パン3つ・シュークリーム2つ・プリン3つ・ポテトチップス2袋・アイスクリーム2つ・せんべい半袋・・・
ひとつ何かを食べては台所をうろつき、何度も冷蔵庫をあけ、戸棚をあけ食べ物を探す。
さすがにおなかが苦しい。早く出さなきゃ。出さなきゃ、吸収されちゃう。このままじゃ太っちゃう。もうムチャ食いはしないってあれほど誓ったのに…だめだなぁ。昨日も今日で最後、もう絶対しないって誓ったっけ。あぁ苦しい。もうこんなこと絶対にしない。明日からは健康的な生活を送るの、、だ。だ、ダメだ。もう限界。出さなきゃ!
トイレで便器の前にしゃがみこむと、のどの奥に指を突っ込んで、さっきまで食べていたものを吐き出す。何度も指を突っ込んで食べたものを出していると、唾液はもちろん、鼻水も涙もどんどん出てくる。それは食べ物だけではなく嫌な自分も吐き出しているような気になる。頭がジンジンして、手が痺れてくる。それはダメな自分に対する罰のような気がする。指を突っ込んでも何も吐き出せなくなると、まっすぐに立つことすらままならないほどに胸よりもでていたおなかはぺったんこになって、あばらが浮いている。
これで大丈夫。元通り。今日もいっぱい出したなぁ。罰も受けたし、あぁスッキリした。でもちょっとおなか痛いかも。そろそろ体やばいかな?まぁいっか。早くシャワー浴びて学校行かなきゃ。
ジャーっとトイレの水を流すと汚物と一緒に後悔や決意も流れていった。

極端な食欲不振とやせ状態については、17世紀後半から報告があるのだが、症例の急激な増加は、第二次大戦後から、特に1960年代以後である。しかし当初は、拒食タイプだけが注目されていた。日本では、1970年代になり、過食タイプの報告が多くなった。そして、従来から知られていた神経性無食欲症(思春期やせ症、拒食症)に、その対極にある神経性大食症(過食症)を加えて、それらの上位概念として、摂食障害(Eating Disorder)という用語が使われるようになった。過食症は、さらに、自己誘発性嘔吐や利尿剤、下剤乱用などの浄化(Purging)を伴うものと単にやけ食い(Binging)だけのものに分けられる。このほかチューイング(Chewing,噛み吐き)だけという特殊タイプもある。もっとも、これらの下位分類は個々の患者(とくに若年層)の病歴の中では、合併したり相互に移行する傾向があり、その場合には拒食期、過食期というように呼ばれる。一般に、拒食症(拒食期)のほうが年齢的にやや若くて、十代に多く、過食症(過食期)は20歳前後に多いという特徴がある。拒食症から過食症にという病状変化の傾向がある一方で、拒食からでなく、過食から発症するタイプは低年齢で発症する傾向があるという報告もある。嘔吐なしの過食タイプは、約9割がダイエットからスタートするが、過食嘔吐タイプはもっといろいろな発症の仕方をしている。従来、男女比は1対10と、圧倒的に女性に多いとされていたが、これは治療に現れる患者の男女比で、潜在患者までを含めると、男女の差はもっと少なく、1対5程度であるという意見がある。日本における青年期から若年成人期の女性の過食症の有病率は1-3%だ。米国では、若い女性の0.1%前後が拒食症で、2%前後が過食症と推測されている。日本では、テレビが普及してきた 1960年代に拒食症が、コンビニエンス・ストアーが増えてきた75年以降に過食症が増えてきたといわれている。
 日本における摂食障害者の近年の傾向として、1.拒食症から過食症へ移行するケースの増加。 2.拒食症の既往のない過食症の増加。 3.特定不能の摂食障害者の増加、などが指摘されている。
 日本においては、摂食障害者の増加に対して、専門施設や専門医、専門スタッフの不足が続いており、専門医の疲弊傾向が強いといわれている。一方では、医療機関の中には、時間と手間のかかる治療を嫌がり、摂食摂食障害患者を敬遠するところも少なくないようだ。

身長158cm、体重43kg。鏡に映る姿はすらりとした体に軽やかなボブの22歳。
今の体、好き。やっぱり痩せてる方がかわいい(笑)ちょっとむくんでる?うー肌も荒れてるかも。やっぱ吐くのがまずいかなぁ。ふつうの食生活しなきゃ。お母さんも心配してるし。でも1口食べちゃうと止まんないんだよね。おいしそうなもの見ちゃうと我慢できないし。太りたくないよー。吐かなきゃうまく体重維持ができなくなったなんて、いつからだっけ?

 自然公園に隣接しているせいだろう。都心のわりに緑豊かな高校は空が広い。この広い空の下で生徒たちは思いっきり体を動かしている。陸上部に所属する私は毎日この大空の下を走ってる。およそ30名が所属する中で女子は少なく3分の1に満たないほどだ。そして短距離の女子はおそろしく少ない。幽霊部員の先輩と私だけ。だから練習メニューはもちろん男子とおこなわれる。走るスピードも筋力も私とは桁違いだ。けれど弱音なんか吐いていられない。誰よりも速く走りたい。高校生の私はすべてを陸上に賭けていた。きつく、つらい練習も「ありがとうございます。おつかれさまでした。」の最後のあいさつで吹き飛んでしまう。何よりもきつく、つらい練習があるからこそ練習後の仲間との語らいや、食事がとても楽しい。
   
100メートルや200メートルを専門としていたが練習を重ねるうちに専門種目の距離は伸び、400メートルが専門となっていた高校2年の夏、顧問の教師は私にこう言ったのだった。「女子全員で駅伝に出るぞ」と。出場校の少ない女子の駅伝では男子よりも上位を狙いやすいのだ。1年の冬に行われた校内のマラソン大会で意外な奮闘をし、3位に入賞してしまった。長距離に期待のスーパー中学生が進学してきている。このチャンスを使わない手はない。私は中長距離ブロックへの移動が決まった。短距離と中長距離とでは練習の質が全く違う。短距離では瞬発力を爆発させるためのパワー重視のメニュー。これに対し中長距離では持久力をつけるためのスタミナ重視のメニューだ。なんとか練習についていく日々。陸上は個人競技である。自分を追い込めながらそれを乗り越え記録を伸ばしていく。だから記録の伸びは自分の頑張りによるところが大きい。しかし駅伝となると話は別だ。走るときは1人だが記録は全員のタイムによる。よって、自分がチームに責任をもたなければならない。

はぁはぁ まだ1キロも残ってる。でもついていかなきゃ。私が足を引っ張るわけには行かない。あんなに細い体でどうしてあんなにスタミナがあるの?足が重い。重い?重いせいか?
今夜の夕飯はハンバーグ。駅伝まで残された時間も少ない。 ガチ子なんて呼ばれるような体をしてちゃだめだ。短距離の体つきのままだったら記録は伸びないし、チームに迷惑がかかってしまう。痩せなきゃ。でも、どうすればいいの?運動は十分にしてるし。ごはん食べないとお母さんにきっと怒られちゃうだろうし。―――そうだ出しちゃえばいいんだ。食べてから出せば怒られることもないし、痩せるはず。指をのどの奥に突っ込めば楽に吐けるって、なんかに書いてなかったけ。
トイレへ行って、おそるおそるのどの奥に指を突っ込む。すぐに吐き気をもよおして、食べたものは吐き出された。それから夕食は食べた後に吐き出す日々が続いた。50キロあった体重は45キロまで減った。自分がおかしいだなんて少しも思わなかった。朝はきちんと食べているし、お弁当ものこしてない。夜吐き出すだけ。みんなには痩せてかわいくなったっていわれるし、走っていても体が軽い。
体がフラフラして、めまいがする。なんだかだるい。なんのためにこんなに頑張ってるんだろう?どうしてこんなにきつい練習しなきゃいけないの?もう疲れたな。先生に腰が痛いって言って休ませてもらおう。 練習を少しずつ休むようになって、休んだ分だけ太っていくような気がした。それで朝は普通に食べるけれどお弁当は残して捨てて帰るようになった。そのぶん夜はおなかがすくから前よりもよく食べるようになった。そのうちにどうせ吐くならと心ゆくまで食べるようになった。
高校3年の夏、引退することにした。去年の駅伝はあと1つ順位が上だったら関東大会に駒を進めることができた。今年は駅伝経験も積んでいるし冬と夏を越しているのだからきっといいところまでいける、そういって引きとめられたけれど私には、力が残っていなかった。思うようにタイムは伸びないし、腰痛もひどくなる一方だ。よく風邪を引く病弱な体になった。なによりも何もする気が起きなかった。病弱になっていたのは心のほうかもしれない。だから受験を理由に引退した。あんなに陸上に賭けた高校生活は自ら拒む形で幕を閉じた。引退してからますます太っていくような気がして現役の頃以上によく食べ、よく吐くようになった。無気力でよく学校を休んだ。みんな勉強のために出席日数ギリギリなだけ出席して休んでいたから、私もそんな風に捉えられていたのだろう。みんなの前では明るくふるまっていたし誰にも気にされなかった。外ではあんまり食べないけれど家では吐けばいいと思ってものすごく食べていたから家族にはばれていたはずだ。親は遠まわしに大丈夫かと聞いてきたけれど、それきりだった。弟は私のあとのトイレが臭いと騒いでは親にたしなめられていた。高校生という難しい年頃の女の子の扱いにそうとうの気をつかっていた。
もうイヤだ。こんなにつらいのにどうして生きてなくちゃいけないの?なんのために生きてるんだろう?どうせ死んじゃうのに。死んだらそれで終わりなのに。お父さんとお母さんがこんなこと知ったら悲しむだろうな。生まれてきたこどもを一生懸命育てて、こどものために必死に働いて。こんなこどもでごめんなさい。期待はずれのこどもに育ってごめんなさい。

患者は自分の状態についての自覚が乏しいので、治療を受けることに対する抵抗が強く、治療への導入は困難である。とても頑固に見えるが健康な人の頑固さと異なり、心の奥底には挫折感や空虚感といったものが隠されている。 
 摂食障害には主に神経性無食欲症と神経性過食症の2つの病態がある。
神経性無食欲症(拒食症)
 <主徴> 無食欲,やせ,無月経
 <精神的> 活発,活動的,治療を拒否する
      どんなに痩せていても自分が異常だとは認めない
神経性過食症(過食症)
 <主徴> 「気晴らし食い」と呼ばれる過食行動を頻繁にくり返す
      過食直後に嘔吐あるいは下剤を乱用する浄化行動が見られる
 <精神的> 無気力,抑うつ的,治療を求める
      自分が異常だと自覚している
このように両者は全く正反対の病態のように見えるが、拒食症患者が数ヶ月後に過食症へと症状変遷したり、逆に、過食症患者がしばしば拒食症のような症状を呈することがある。つまり、拒食症と過食症は全く別の疾患ではなく、相互に移行したり重複したりするような病態であり、その患者は非常に多様でその病像も複雑である。

発病状況
心身症型発症群=職場、学校、家庭などでの心身のストレスが誘因となる
気晴らし食い型過食症
心身のストレスを過食という方法で解消しようというもの。
食欲低下型拒食症ないし過食症
心身のストレスにより食欲低下状態になり、その経過中に拒食あるいは過食になるもの。

ダイエット型発症群=美容や健康上の理由から意図的に食事を制限して食行動の変調をきたすもの
無謀減量型拒食症ないし過食症
ダイエットにより当初の減量目標を達成してもさらに欲張って減量を継続することで発症するもの。
自発嘔吐型拒食症ないし過食症
かなりの忍耐を要するダイエット減量法ができない人が食後に自発的に嘔吐して減量を図るもの。

食行動異常
拒食症患者の場合
   心身のストレスによる食欲低下orダイエット
       ↓
   意図して食べない(心理的)
       ↓
   食べようにも食べられない(身体的)
拒食症では、心理的要因から無月経や無食欲などの身体症状が引き起こされ、内分泌異常や電解質異常などの身体的変調が精神症状の出現を助長することによって、さらに食行動が悪化するという心身相関的悪循環が形成されている。
過食症患者の場合
    食べたい(強い衝動)
        ↓
    短時間で大量の食物を摂取する(無茶苦茶に詰め込む)
        ↓
    不食または浄化行動
過食の衝動は健康的な空腹感や食欲にもとづくものではなく、これを自制するのは極めて困難である。過食症の多くの患者は、「なぜこのようなあさましい行為が止められないのか」と自己嫌悪の気持ちを抱いている。そして自助努力の限界を自覚し医学的治療を求めるようになる。

摂食障害の原因
摂食障害の原因は人によって様々である。はたから見れば“些細な”事が引き金となっていることが多い。いずれにせよ他人が簡単に分析できるほど単純ではない、というのが真実のようだ。主に見られる共通点を挙げると、次のようなものがある。
過激なダイエット、 肉親の死などの精神的ショック、 生活環境の変化などによる過度のストレスなど
 また、摂食障害になりやすい性格、あるいは、摂食障害の人に共通して見られる性格は次のようなものである。まじめ,神経質,完璧主義,努力家・傷つきやすく、いつも人に気を使う・ 比較的美意識が強い・ 表向きは家庭に恵まれているが、内実は母との軋轢がある・他者依存的な傾向が強い・便秘やむくみを異常に気にし若い頃から下剤、浣腸、利尿剤を常用している

摂食障害の特徴
1. 空腹感,満腹感を感じにくい。
2. 痩せているという自覚がなく、むしろ自分は太っていると錯覚している。
3. 拒食症の場合、体重は著しく減少している割に元気で活動的であり、通勤や通学を続ける。また、治療に対しても非協力的で、他人の注意も全く意に介さず、マイペースを崩さない傾向が強い。
4. 拒食症の場合、精神的には無気力・抑うつ的で、自分が異常だと自覚しており、治療を求める。
5. ホルモン異常による不整脈や無月経,基礎代謝の低下を伴う。
6. 下剤,利尿剤など薬に対する精神的依存が強い。
7. 嘔吐や下剤乱用などの「浄化」と呼ばれる代償行動をとる。
8. 自傷行為を伴うことがある。
9. 他人のために料理をしたり、他人に執拗に食べ物を勧めたりして、自分以外の人間を太らせようとする行動をとる。

摂食障害の合併症
過食と嘔吐の結果生じるもの
虫歯,歯のエナメル質浸食
嘔吐をくり返すと、胃酸が何度も口の中に上がるため、歯のエナメル質が解けて歯がボロボロになり、痛みが出たり、虫歯が治りにくくなったりする。
唾液腺炎
過食が習慣になっていると、食べ物が口に入っている時間が長いためいつも唾液腺が刺激された状態になり、唾液腺が大きく腫れることがある。さらに、口腔内が不潔な場合、細菌が唾液腺の中に入って炎症を起こし、かなり痛むことがある。
また、嘔吐するのが日常的になっている人が、治療の途中で嘔吐するのを止めるようになると、それまで大量に流れていた唾液の量が減り、唾液腺の中が詰まりやすくなって炎症が起きるということもある。
電解質のアンバランス
胃液や腸液の中にはカリウムが含まれており、嘔吐したときや下剤を多量に使って水分の多い便が出た場合などには、このカリウムが多量に失われ、かなり深刻な低カリウム血症になることもある。 
心臓はカリウムの増減にかなり敏感に反応するため、カリウムが減少すると、不整脈になったり心臓が止まったりもする。また、カリウムは神経の働きにも影響を及ぼすので、手足がしびれる・突っ張るといった自覚症状が出ることもある。

慢性の栄養失調の影響
冷え性,低血圧
人間の体温は普通まわりの空気の温度より高く、放っておけばどんどん熱を放散することになるが、実際は脂肪組織に断熱効果があり、適切なエネルギーの食べ物を摂取することで、36度以上の体温を保っている。拒食プラス過食の症状が強くて体重が軽い場合、体温や血圧はたいてい普通の人より低い。これは、脂肪組織の減少により熱が奪われやすくなっているということもあるが、身体に入ってくるエネルギーがあまりにも低いので、無駄な熱やエネルギーを使わないほうに、体温も低く、脈もゆっくりになっていくためである。つまり、低体温,低血圧,徐脈といった、言わば冬眠中の動物のような状態になってしまうのである。
貧血
血液中の赤血球は作っては壊れていくものなので、摂食障害により栄養が不足すれば新しい血球は作られず、赤血球が少ない状態つまり貧血になる。赤血球は酸素を全身に運搬する役割を担っているので、貧血が進むと疲れやすかったり、ちょっとしたことで動悸がしたりする。
骨粗鬆症
骨は骨細胞と破骨細胞によって毎日作られたり壊れたりしており、これには様々な物質が関与してくるが、その一つに女性ホルモンがある。摂食障害で脂肪の量が減ると、活性のある女性ホルモンが減るため、骨にカルシウムの沈着が少なくなって老人と同じような状態になり、骨粗鬆症になってしまうことがある。
無月経,無排卵
女性ホルモンは卵巣から分泌されるが、その分泌は視床下部-下垂体-卵巣という経路で調節されるため、栄養状態や精神状態の影響を受けやすい。摂食障害で体重が減少したり、精神的に非常に不安定になったり、極端な低栄養状態が続いたりすると、ホルモン分泌に異常をきたし、無月経や無排卵になることがある。また、エネルギー不足のために、子宮そのものが小さく萎縮してしまうこともある。

身体的治療
薬物療法
摂食障害の治療は心理(精神)療法が主体であり、薬物はあくまでも補助的療法だが、病気から派生する心身の症状を軽減するのに効果を発揮する。摂食障は身体症状・精神症状・行動が悪循環しながら悪化するので、薬を適切に使うとこの悪循環を拡大せずにすむ場合もある。
精神面の改善に対しては、抗不安薬や抗うつ薬がよく処方される。低栄養がある場合には、栄養補給としてアミノ酸製剤や栄養剤を使うこともある。その他に、消化薬,吐き気止め,便秘予防,自律神経調整薬,ビタミン薬,胃腸機能調整薬などが用いられる。
栄養指導
摂食障害では栄養指導は重要な治療法で、食べ方や食べる量を強制するものではなく、痩せたいという願望や心理状態を受け入れて、現状に即したアドバイスが行われる。無理に体重を増やすことではなく、できる範囲で栄養バランスをととのえることを目的としている。

心理・行動面への治療
家族療法
家族療法は、個人ではなく家族全体という視点に立って治療を進める方法である。個人がどうかというより、家族全体として相互がどう影響しあって反応しているかを重視して考え、また、過去にこだわらず“今ここで、なにをすべきか”を主題とした具体的な問題にとり組む。子供の摂食障害では、家族療法がよく行われるが、家族が互いに強く絡みあった関係になっている場合などは、この療法が効果的である。個人としての自立をすすめ、父母は父母として子供は子供としての世代間のけじめをつけ、家族が摂食障害以外の本質的な問題に目を向けるようになることが治療の目的となる。

家族カウンセリング
病気と患者への理解
 摂食障害への理解を深めてもらうと同時に、患者の気持ちを理解できるように話し合う。もし誤った認識や対応があれば、どう変えていくかを考える。
治療への動機づけ
 治療には家族の協力が不可欠であることを理解してもらい、積極的な治療参加を求める。
不安の軽減
 これからの治療についてよく知ってもらい、過剰な不安をなくしてもらう。
治療協力者としての自覚
 発症の原因は家族の問題だけではないことを理解してもらい“今、これから”に目を向けて、ともに治療協力していくという自覚を持ってもらう。
患者への対応の具体的指導
 日常生活での適切な対応方法を知ってもらう。
家族関係の変容
 家族の“誰が悪い”ということではなく、家族を全体としてとらえ、相互関係を考えながら改善するように話し合う。
症状の肯定的位置づけ
 発症は、患者や家族のあり方を向上的に変化させるチャンスであることを理解してもらう。
心理的問題への援助
 家族に心理的問題があれば、その解決について話し合う。
家族内関係の調整
 患者の兄弟関係や他の同居家族との関係などについて話し合い、問題点があれば改善する。
行動療法
習慣になっている不適切な食行動をなくし、適切な食行動の形成をめざす治療法である。症状を除くだけでなく、正しく認識して適切な食行動を作るための行動療法的カウンセリングも行われる。

入院して行なう過食症の行動療法
「自己統制法」がよく用いられる。治療機関によって方法に違いがあるが、例えば以下のような手順で治療が進む。
1. 摂食障害の身体症状,合併症,予後などについて説明を聞いて、入院の目的を理解し、治療への意欲を高める。
2. 入院後3日~1週間は病棟生活に慣れるための期間で、その間に身体的検査や食事摂取量調査、心理テストなどを受ける。
3. 検査結果などの説明を受け、それに基づいた治療目的,治療方針,治療期間などを話し合って決定する。
4. 過食・嘔吐などの排出行動の制限をどうするかなどの食行動制限についてや、食事メニュー(栄養士と相談の上)を決める。低体重のときは、体重増加を目標に入れることもある。同時に、食事やその他の日常生活に関した行動プログラムを作成し、それを守るよう約束する。次いで、外泊・外出・面会・安静度などの日常行動の制限を決め、その制限をどの時点で解除するかについても決める。過食や嘔吐があったときは「誰がどのようにストップさせるか」などについても具体的に打ち合わせる。これらの決定は、治療者が一方的に通告するのではなく、本人の意志を確認しながらともに考えるのが特徴で、目標も制限も治療者との話合いで決め、実行は本人に任される。
5. 約束項目に関することをグラフや日記に毎日記載し、それについて治療者と話し合う。誤った思い込みや考え方があれば治療者が指摘する。
6. 約束を守って逐次目標に到達すると、面会や外出などの日常行動の制限が段階的に解除されていく。外出・外泊が可能になれば病院外で摂食して、うまくいくかどうかを試す。1週間以上の外泊をしても過食や排出行動が出ず、3食がある程度摂取できるようになれば退院となる。退院前には、今後の生活計画を立てて、できるだけ活動的な生活を目指す。
集団療法
集団療法とは、計画的に組織された集団の場を設定することで、対人関係を体験し、自己評価の向上や適切な行動を学んでいく治療法である。グループを組んで、話し合いをしたり心理療法的な活動を行なったりする。

認知行動療法
摂食傷害の発症には、自己概念の形成が関係しているといわれており、また、自分に起こる物事に関する偏った思い込みもある。認知行動療法では、こうした思い込みを是正していく。

そういえば高校の部活から始まったんだった。それがずるずると気づいたら自分で自分を止めれなくなってたんだっけ。やめたいのに食べ始めたらおなかいっぱいで苦しくなるまでやめられなくて、だけど太りたくないから吐き出して。なんのためにこんなことやっているのかそんなことわからない。ただ大きな病気になる気配はかんじられないし、習慣になってしまった。今はおもいっきり食べると排便もしっかりできるから気分がさらにすっきりする。
家族に気づかれながらも隠くれて、過食してその後に吐くということを続けてきた私に突然の転機が訪れる。それは22歳の寒い寒い冬のある日、レイプされかけた私は夜中にパニックになりながら帰宅した。尋常でないほどに泣き続ける私を両親はそっと抱きしめ続けてくれた。泣きながら何を言ったかは覚えていないが今までのつらいできごとも話していたらしい。
うーー信じられないほどに目が腫れてる。こんなんじゃどこにも行けないよ。もうひと眠りしてゆっくりお風呂にでも入って、それからなにしよう?春休みだもん。のんびりしよう。
いつもなら嫌なことがあったら食べて、食べて、食べて、吐いて…それでスッキリする。ヒマだし何か食べるかってとこだけど、そんな気にもならなかった。今日は不思議と心は軽やかだった。

 
 その後彼女は、家族の協力の下に回復に向けて広い空の下を元気よく走っている。なにしろ帰ったらおいしい夕飯が待っているのだから。
 摂食障害になる原因はまちまちだが、根底には家族関係の不和があることが多いといわれる。良い子や完璧主義の子がなりやすいともいわれる。しかし
実際の原因はさまざまで、型にはめて考えることのできない病である。その上、誰もがこの病に陥る危険性を有している。これから患者増加が予想される病なのではないだろうか。断片的な情報だけではなく正しい知識と理解をもたなければならない。もしかしたら気づかないだけで、すぐそばで苦しんでいるのかもしれないのだから。

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